▼ 死なない忍

弔い合戦の後に開かれた上役会議で、“暁”の一人・飛段の処遇が決まった。奴が埋まっている奈良家の森の一画に、封印式の結界が張られることになったのだ。常人が立ち入ることのできない強固な結界を敷くことで、未来永劫触れない防御とする。シカマルや他の奈良一族の忍たちも、これに合意した。
私がその封印術を請け負うことになったのは、永代効果を持続させるに相当する量のチャクラを有していたから――というよりも、よほどのことではお前は死なないだろう、と皆が感じたからだろう。
必要な術式と印を習得し、私はシカマルに連れられて、はじめて奈良家の森に足を踏み入れた。

現場につくと、シカマルは険しい表情で、土砂に塞がれた穴を見下ろした。そこに、アスマ先生を殺した忍が、シカマルが殺したくてたまらなかった人間が埋まっていることを、沈黙が示していた。
封印術はひとりで行う決まりだ。
私の身を案じながらも、シカマルは静かに森を後にした。

ひとりになってから、妙なことがあった。
聞き取るのがやっとなほどに小さく、不確かなものだったが、私はその声をはっきりと聞いたのだった。




「ジャシン様?」

ジャシン様。
その男がたたえる神の名前だと、たしかシカマルが言っていた。幻聴だろうか。シカマルも去り、私以外誰もいないはずの森に、人の声が響くことはないのに。

「ジャシン様!」

さっきよりも大きな声が土の中から聞こえてきて、さすがに、薄々勘づいていく。
やめて。私は、お前の神様だと間違われたりするのは心外だ。

「ちがう」

短く言うと、先ほどまで期待の込められていた声は急に落胆の色に満ちた。

「なんだよ女かァ」

「女で悪いの」

「ジャシン様は女じゃねェからなァ。てめえ木ノ葉の忍か?おい、あのガキどこ行った」

あのガキ、とはシカマルのことだろう。
数日も経って流石に肉片も朽ち始めたかと想像していたけれど、“暁”の一人で不死身と称される忍ともなれば、生命力は推し測れない。
そのうちにまた、ひどく間の抜けた声が聞こえた。

「オレは鼻がいいんだ。顔は見えねーがよくわかるぜ。お前もけっこう人殺してんなあ!」

首だけになって、しかも地中に埋まってるくせして、よく喋る。まだ死ぬつもりはないらしい。

「“暁”の飛段。たしか湯隠れの出身ね」

「あんな平和ボケした里、忘れたぜ」

「キリュウを知っている?」

私はこの名を久々に口にした。中忍試験で戦った相手だ。

「キリュウ?ああ?あの猛毒殺人バカか?ハッ 超ムカつくヤローだったなァ!」

「私が殺った」

「お前が!?ゲハハハハ、傑作だなオイ!」

ときどき、ゲハハと枯れた喉でひどい笑い方をする。こんな狂人を、狂人を殺めたことをシカマルがこれからも向き合っていかなくてはならないなんて、ひどい話過ぎて涙も出やしない。神も仏も彼を見放したのだろうか。

「助かりたい?」

気づけば口から出任せが。

「私の忍術ならお前のバラバラの体を元通りにできる。治せる」

「ホントか?」

「うそだよ。絶対治療なんてするものか。お前がそこから出てきたら……いや 出てこなくても、シカマルはずっと苦しむのに」

「シカマル?そうそう、シカマルとかいう名だ!あのクソガキは!」

「アンタが死なないからシカマルは一生苦しむんだ」

「んなこと知るかよ」

「頼むから死んでよ」

「オレだって死ぬか地獄に落ちるかしてーよォ。口ん中泥まみれだしよォ、こんな暗い穴よりゃ地獄のがいいに決まってるぜ。なァ、そんなことより、そこら辺にネックレス落ちてねーか?」

「ネックレス…?」

「でっけー飾りがついたやつ」

あたりを見渡すと、それはあっさり見つかった。近くの木の枝に、指輪のはまった人差し指と一緒に、チェーンが引っ掛かっていた。あれがこの男の言うネックレスなのだろう。

「あるけど、こんなものがあれば幸福なの」

「そりゃあ、祈ってりゃいつかジャシン様が迎えにくるからな!こんな穴出て元通りになって、あのムカつくガキもお前らもみんな1人残らずギッタギタよォ!」

この男の信じるものは、まるとさんかくの単純な神。

「見間違えた。ただのゴミだった」

私はネックレスを木の枝から取り上げると、掌にくるめてバキバキに壊した。そらみろお前の神なんて粉々だ。指の破片は、別の木の下に埋めた。
残るは奴の指にはめられていた、“三”の文字が刻まれた指輪だけ。
それも散々に踏みつけて塵にしてやりたくなったけれど、同じものが“暁”のイタチの指にはめられていたのに気づいて、押収した。

封印術の印を組めば、辺りには見えない結界が張られ、奈良一族以外の忍者は結界の中に踏み込むことは出来なくなった。
さっきまでうるさかった声はもう聞こえなくなっていた。
いや、後から考えて見れば、最初から声なんて聞こえていなかったのかもしれない。夢か現かわかりかねる奇妙な出来事だった。

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