▼半分こ

カカシ先生には大人気ない一面があるらしい。帰り際に軽めに殴られた頬は、今回の任務での、オレの一番の負傷になった。
 
「いってえな……」

階段を一歩一歩、踏み締める。上がりきったその先には、医療班のあいつの、自室がある。
ケリつけたら必ず行く。そういう約束だった。


部屋のドアは開いていた。
シズクは机に伏せて、書類の山に埋もれるようにして 小さな寝息をたててた。すぐそばまで近づいても、なかなか目を覚まさねェ。
目の下にくっきりした隈を見つけて、辛い思いさせちまったと改めて自覚した。
柔らけえ髪に触れようとして、自分の手が土だらけなのに気づく。迷ったが、頭をそっと撫でると、シャンプーの匂いが微かに香った。

遅くなってすまねえ。
もう区切りをつけたから。


「待たせて悪かったな」


シズクの肩が僅かに身動きし、瞼が持ち上がる。

「……シカマルっ!」

シズクは起きるなりオレの首に腕を回し、体ごとぶつかってくるような勢いで抱きついてきた。

「おい、任務帰りだ……汚れんぞ」

「いい」

シズクはそう呟いて、しばらくの間オレを離さなかった。
じんわりとシズクの体温が伝わってくる。
あったけェ。

ようやく離れた頃にゃ、シズクはすんと鼻を啜り 泣き出してた。

「お帰りなさい」

また泣かしちまった。

「あっ、シカマル頬打ったの!?治療しなきゃ」

「あー……これは違ェんだ。ちょっと野暮用でな。めんどくせーけどこのままでいい」

「?」

これだけ無茶したんだ。今度という今度はカカシ先生にボコボコされるかもしれねェと覚悟したが、かなり手加減されてたはずだ。
今となってはンなこともどうでもいい。

「カカシ先生が送ってくれた第一報、私のところにも届いたよ。それで少しほっとした。みんなも……無事で良かった…」

「ああ。ナルトは腕の怪我があるけどな」

「うん……でもみんな帰ってきてくれて…ほんとに…ほんとに……」

「……いや、正確に言うとまだ終わっちゃいねえんだ」

つうか、多分一生かかる羽目になっちまったと、オレは事の次第を話した。
あいつは奈良家の森の地中に、光も届かねぇ場所に埋まっただけだ。ジャシン教だかなんだか知らねェが、あいつがいつまで生きるのか、バラバラの状態でどうなんのか、誰も判らねェ。
オレが見張っていくことになるのだけが明白で、おそらくは、この先ずっと オレが死ぬまで。もしかしたら死んでからも。終わりなんてねェのかもしれねーんだ。
お前に重荷を背負わせたくもねェ。
だがこれ以上お前に何も言わずに、隠してすれ違うようなことにゃなりたくねえ。

「けど心配すんな。お前に手間は……」

「私もやるよ」

「!」

「大丈夫。私は最後までシカマルのそばにいる」

土埃や血で汚れたこの手に、シズクが躊躇なく自分の手を重ねてくる。

「いままで シカマルは私の苦しみを半分引き受けてきてくれた。私もシカマルのしょいこむもの、半分持ちたい。シカマルを支えたい」

目を見て微笑み、シズクはまたオレの背中に腕を回した。
お前、よくもそうあっさりと言うぜ。大丈夫大丈夫って根拠もなくよ。
そう呆れながらも目頭が熱くなる。


「――――ただいま」

シズクの肩に額を押し付けて、強く強く抱き締めた。

「おかえりなさい」

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