▼瞳を閉じては

「シズクっ!!」

あわい緑色の瞳が見えたかと思うと、がばっと体が浮く。サクラに 抱きつかれてるんだ。まだ 体にうまく力が入らない。

「あの白って子の術で凍りついてたのよ!冷たいし顔も真っ青だし、シズク死んじゃったかと 本気でっ……!」

「ごめん。ドジ踏んだ」

「目を覚ましてくれてよかったぁ……本当によかったっ!!」

しゃっくりをあげるサクラの、目尻が真っ赤に腫れていた。

「サスケ君もひどいケガなの!」

「サスケが!?」

立ち上がろうとして、がくんとひざが崩れそうになるのを、サクラが慌てて支えてくれる。

「術が解けたばっかりなのよ!すぐ動けるわけ……」

「サスケを看にいく。サクラ、肩貸して」

「あんたね!自分がそんな状態でなに言ってんの!」

「大丈夫。すぐ回復するから」

「え…?」

もう一度足に力をこめたら、今度は大丈夫そうだった。

「話は後。それより早くサスケのとこへ」

「も〜、何よ!」


薄暗い霧が晴れて、こんどは季節はずれの雪が降り出した。
灰色の世界に、ぼんやりと淡く光っている。
サスケのもとへ急ぐと、あの頑丈な氷の鏡はすっかり溶けて流れ、サスケ君が半ば足を引きずるような歩き方でこっちに近づいてきていた。

「シズク……お前も無事だったか」

「心配かけてごめんね サスケ。ケガの治療するからそこ座って」

「大したことねえ。掠り傷だ」

「口答えしないで見せて!ホラ」

サスケの怪我にてのひらを翳し、わたしはチャクラを練った。両手から溢れ出るチャクラで、サスケの傷口は塞がっていく。

「シズク、その術は?」

「掌仙術。サクラははじめて見る?」

「うん そうやって治療できるのね」

治療のあいま、サスケがぼそっと呟いた。

「……すまない」

「へ?」

「豪火球も試したが お前のいる氷の鏡に効かなかった」

「わたしのこと助けようとしてくれたの?」

そっぽ向いて黙ってしまったけど、これはサスケ流の照れ隠しなのかもしれないな。
応急処置は済ませて、サスケをサクラに任せ、わたしはカカシ先生たちのほうへ向かった。頭は妙に冴えていて、ある考えだけが、ぐるぐると駆けめぐっていた。けれど、それをサクラに聞くことはできなかった。
瞬身すると、ナルトがわたしに気づいて 涙と鼻水をだばだば流しながらこっちに向かってくる。

「シズク!大丈夫なのかー!?」

「うん 平気だよ」

「なんだよ!すっげー心配したってばよ!!」

うわあ、ありがたいけど涙と鼻水とつばは勘弁だ。思わず一歩下がれば、ナルトも袖口でゴシゴシと顔を拭いながらニシシト笑った。

「無事で何より」

カカシ先生もナルトのすぐ後を追ってやってきた。

「気にかかってたんだが……助けにいけなくてごめんね」

「大丈夫。ふたりも無事でよかった。……ねえ、あの 白は……?」

先生とナルトが振り返った先には、寄り添って横たわるふたつの亡骸があった。
わたしを拘束していた氷遁忍術が途中で解けたのは、やっぱり、彼が息絶えたからだったんだ。

「再不斬のヤツを庇おうと飛び出してきたんだってばよ」

「彼の夢の為に生きて死ぬのが、ボクの夢です」

あなたは大切な人を、自分の夢を最後まで守りきったんだね。
涙を潤ませるナルトの肩に、カカシ先生が腕を添える。

「シズク お前もあの少年と会ったのか?」

「うん…」

それに、おそらくわたしは彼のおかげで命拾いをしたんだ。仕留める機会は十分あったはずなのに、白はそうしなかった。最初から、わたしを殺すつもりなんてなかったんだ。
あのとき、彼の仮面の下に、漆黒のひとみの奥に、大切な人への想いを見つけて 躊躇した。かつて自分の命を盾にした、わたしのいちばん大切な人の姿が重なった。わたしに白を殺すことはできなかっただろう。どの町でも里でも、誰かが誰かの盾になり、庇い、いなくなる。
それでも、ねえ 白。
先に逝ったら大好きな人のそばにもいられなくなっちゃう やっぱり思ってしまうよ。

白い空を見上げる。雲は弔い、これから2人が一緒にいられるようにと祈るように雪の結晶を降らせていた。
記憶の中のやさしい彼の微笑みを忘れないように、わたしは目を閉じた。

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