▼先生

「ゴホッ」

「ゲホ、ゲホッ」

「あ!わりィわりィ」

第一印象は、苦くて煙たいひと、だった。

「第十班の担当になる猿飛アスマだ。厳しくするから覚悟しろよ!―――っておい、いきなり泣くなよ。まだ厳しくするって言っただけだろ」

「煙が目に染みるんだよ!!」

だれが髭面のオッサンが怖くて泣くかよ。
この上忍、忍のくせにタバコなんか吸いやがる。こんな匂いの強いモン常日頃から親しむなんて ロクな忍者じゃねえな。
山中、奈良、秋道。三つの一族を結ぶ猿飛一族の役目ってのを、ずいぶん昔に親父に聞いたことがあった。だからこの猿飛一族の上忍がオレたち猪鹿蝶の班にあてがわれたのしきたりなだけ。
最初はそう思ってた。
面倒見はいいが、口うるさくてワガママないの。優しいがいつも弱虫なチョウジ。めんどくさがりでだらしないオレ。プラス、担当の先生。出会った時はその程度だった。

以降、オレの作戦で二人を引っ張ることはしばしばあったし、三人のフォーメーションなら誰にも負けたことがなかった。それなのに、オレの下忍になって最初の作戦はアスマにまるで歯が立たなくて。しかも余裕綽々でタバコなんかふかされてて。いのもチョウジも、先生って結構カッコいいよねなんて言いやがって。くそ。
ところが、任務のときはまあまあカッコいいわりに、将棋のほうはてんでダメで。

「ま……負けた…」

「手ェ抜かなくていいっスよ マジで」

最初の一局からすげえ弱かったな。あれは笑った。
はじめてアスマを出し抜けたのが将棋。本音を言やあ戦闘で勝ちたかったが、何かかしらこの人の上をいったのは嬉しくて。このオッサン、おもしれーなって。
いつの間にか、いのとオレとチョウジとアスマ、の四人になっていた。

「このピアスはオレからの中忍祝いのプレゼントだ」

いのとチョウジが中忍試験に合格し、三人が全員中忍になった日にアスマからもらった、銀色のピアス。この真新しい勲章が、いつかオレたちが自分たちの子に引き継ぐ誓いの証しになると知った。

「このピアスはお前達三つの一族において一人前となった証だ。今しているリングピアスを各々の一族に返してこい。その時よりお前達は一人前の忍として一族に認められる」

そのときを見守ってくれるって信じてやまなかった。

「さあ行ってこい。オレ達が第十班のチームだった事を忘れないようにな!」


「忍らしい最期だった」

なあ アンタ強いんだろ。元守護忍なんたらだとか、自慢してたじゃねえか。木ノ葉の上忍じゃねえか。オレたちの前じゃ、余裕ぶっこいて煙草吸ってたじゃねえか。木ノ葉崩しのとき、オレんとこに駆けつけたときだって、あんなに容易く音忍を八人瞬殺してたじゃねえか。

オレたちの前を行っていた背中も、あの煙草の香りも、いっつも大人に感じてたよ。アンタみたいになりてえって思えるほどに。
なのにいなくなるのかよ。

オレたちはまだ一人前なんかじゃねえよ。まだまだガキなんだ。いのはワガママなままだし、チョウジだってもうしばらく弱虫だし、オレはめんどくさがりの臆病モンだ。アンタのことだって守れなかった。オレたち三人を見守るのがアンタの役目なんだろ。まだ途中じゃねえか。投げ出すなよ。ちゃんと最後まで面倒見てくれよ。三人じゃ足りねえ 四人じゃないと第十班は揃わない。
アンタが必要なんだ。

好きな女と、生まれてもねえガキ残していくなんて全然カッコよくなんかねえよ。
似合わねえ。アンタには。

「ゲホッゴホッ!」

似合わねえよ。

「ぐっ……うっ…やっぱり…タバコはキライだ」


アスマ。


「煙が目に……染みしやがる…」


嫌いだ。
雨なんて 煙草なんて。

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