▼死神

医療班の業務に忙殺される中、やっとのことで休憩を確保できた私は、ナルトの修行場へと赴いた。
朝から晩まで性質変化の訓練に励んでいるとサクラから聞き、気がかりだったのだ。

ナルトたちがいる山奥までまだ幾分あるというのに、私は天地橋で感じたような、禍々しいチャクラを感知した。足早に山を駆け上がり、そこで目にしたのは、ナルトであってナルトではない、異形ともいえる姿だった。

赤いチャクラが衣のように全身を覆い、耳や長い尾までも形成している。四つん這いの素早い動きはもはや人間の動きでなく、理性の利かない獣のようだった。

「テンゾウ!」

「分かってます!!」

控えていたカカシ先生とヤマト隊長がナルトの九尾チャクラの鎮圧に取り掛かっている。
ヤマト隊長が右手を地に叩き付けると、そこから突き出てくる木遁で九尾チャクラを纏うナルトごと地面に押さえ付けた。封印術は正常に発動したらしく、邪悪なチャクラは次第に息を潜めていった。 

「シズク、ちょっと手伝ってちょうだい」

九尾化したナルトを抑圧したところで、カカシ先生に呼ばれた。
私はうつ伏せに倒れているナルトを抱き起こし、掌仙術でナルトの傷を治療し始める。

「うん。カカシ先生 今のが……九尾化?」

「ああ」

はじめてこの目で見た。
あれが ナルトに封印されていた力の片鱗なのか。

「先輩、こんな事続けてたらナルトは……それにアレを何度も止めるなんてボクにはできませんよ」

ナルトも深いダメージを負っているが、ヤマト隊長にも負担が大きいようだ。リスクを伴う危険な修行法。それでもカカシ先生の表情は厳しい。

「これしか方法はないんだ。ナルトの術が完成するかどうかは ヤマト、お前にかかってる」

「……分かりましたよ」

ナルトの過酷な修行。カカシ先生とヤマト隊長はそれを必死に支えてる。
アスマ先生やシカマルたちは、暁の討伐任務に向かった。
みんな、やるべきことへ精一杯力を注いでいる。

シカマルは今頃どうしてるだろう。
晴れ渡る青空を眺め、どうか無事でいますように、と祈った。


*

―――――ドサ。

視界の片隅で、アスマが力無く、前のめりにゆっくりと倒れていく。

「アスマーーーーッ!!」

常に冷静でいられることを自負していたのに、師が、先生が、地面に倒れた光景をはじめて見て、完全に心を乱した。
嘘だろ。なあ、誰かそう言ってくれ。
チャクラ切れでオレはまともに受け身も取れずに上半身から倒れ込んだ。なんだってこんなに情けねえんだ。遠い。アスマまで、遠い。

「こっちは終わったぜ。角都」

「こっちもすぐ終わらせる」

「……のヤロー…」

オレの師を、イズモさんやコテツさんを すぐに終わらせるって?ゲームみてえに気安く言うんじゃねえよ。

「このヤローが!!」

チャクラ切れの体で立ち上がり走り出すも、敵がイズモさんをオレの方にぶん投げてきやがった。動揺しちまって避けきれねえ。
何だこの無力感は。絶望感は。
アスマが。アスマを早く助けなきゃなんねーのに体が動かねえ。
動け動け動け。
頼む。動いてくれ。
コテツさんの息もあれ以上持たねえ―――そう思った刹那、無数のカラスがどこからともなく現れ、不気味なほど黒い群れが奴らを取り囲んでいた。

「何だコリャ!?」

「目眩ましか」

隙を突かれた敵はイズモさんとコテツさんを解放した。オレの隣にはいつの間にか馴染みの顔がいる。

「シカマル!助けにきたわよ」

「いの……」

増援が来た。
 


「アスマ!!」

急ぎアスマに駆け寄って胸に耳を当てる。

「チョウジ!すぐにアスマ先生を木ノ葉病院へ!!いのは同行して医療忍術で少しでも回復させるんだ!」

「分かった!」

「うん!!」

しかし敵が立ち塞がり、集金首は渡さんと行く手を阻んだ。角都とかいう方だ。
賞金首って呼ぶんじゃねえよ。この人はオレたちの、 。
邪魔すんな、早くしないとアスマが。

「くそ……」

「オレ達が食い止める。その隙にアスマさんを運べ!」

「どんだけジタバタしようとお前らは神に捧げられる贄だ」

逃がしてくれはしない敵。どう抗えばいい。混乱した頭で考えようとすると、飛段とかいう奴が訳のわからねえことを言い出した。

「もう少し待ってくんねーかなァ。これからがイイトコなんだホント」

何がどうなってる。

「だから言ってんだろ。もう少しだけだってよ!」

「飛段 止めろ」

「チィ……」

「すぐに戻る。覚悟はしておけ。……行くぞ」

まるで誰かと会話しているような素振りを見せたのち、暁の能力者たちは瞬身の術で跡形もなく消えたのだった。

「じゃあな、クソヤロー共!」

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