▼気をつけてね

最近のシズクは木ノ葉病院に泊まり込みがちだった。第7班の任務が失敗に終わった後、慌ただしく雲可隠れに出張、その上医療班の激務ときた。
オレもオレで、新しく編成された班での対“暁”演習に忙しく、デートどころかアイツとろくに顔も合わせてなかった。

そんな風に数日が過ぎて、今日。
五代目が富くじに当選するに近いような確率で、たまたま今日の非番が重なった。
シズクと前回会ったのはいつだったかとか 女々しい考えはやめだ。
こうして今 隣にいるわけだし。


連れ立って外に出向いた帰り道。めんどくせーけど、久々にアカデミー時代から行きつけの駄菓子屋にでも寄るか、という話になった。

「わーっ、懐かしー!」

駄菓子屋はますます年季が入ってたが、こどもたちがひっきりなしに出入りして相変わらずにぎやかだった。店番の婆さんも結構な年のクセして未だ現役で、オレたちのことをしっかり覚えてたしな。
シズクは嬉しそうに声をあげ、オレの腕を引っ張った。

「ね、冷やしあめあるよ!よく買ったな〜」

「お前よくこんな甘いモン飲んでたよな」

「こっちのお菓子はチョウジ君がよく買い食いしてたやつだよね」

あの頃、少ねェ小遣いでチョウジたちと駄菓子買い食いしては、母ちゃんに怒られてたっけな。童心に返ってあれやこれやと店頭で手に取っていると、シズクがふと おもちゃの指輪セットに目を向けた。

「へえ 指輪なんてあったんだ」

もろくて安っぽいようなつくりだが、夏の暑い日差しに照らされると、玩具の色石はきらきら光を放ってて。

「指輪とか、女の子の好きそうなものも結構多いよね。アカデミーの頃は気づかなかったなぁ」

「お前はけむりカードとか男が好きそうなヤツばっかり買ってたしな」

「確かに」

あんまりまじまじと指輪の籠を眺めるもんだから、「まさか今更欲しいのかよ?」と冗談混じりに問う。シズクはそうじゃなくてと、首を横に振った。

「紅先生がね、この前会ったときに指輪つけてたなぁって、これ見て思い出したの」

「へェ……やるじゃねぇかアスマ」

オレの脳裏に、プラチナリングのショーウインドウ前で右往左往してたアスマの姿が浮かんだ。
なんだよ、決断早ェじゃねーか。
うまくいったんだな。
一世一代のプロポーズで買った指輪をアスマはなんて言って渡したのか、紅先生はどんな顔で受け取ったのか。恋愛話にゃ普段興味ねえけど、次アスマに会ったら聞いて困らせる位はいいだろう。

「紅先生、すっごく幸せそうな顔してた」

「アスマもスミにおけねぇなよ」

駄菓子屋のおもちゃの指輪と、大人たちのプラチナリングを重ねてんのもおかしな話だが、シズクのやつ 嬉しそうに笑みを浮かべてやがる。

「……お前も憧れたりすんのかよ?」

「え?」

「指輪……とか」

「えー?イヤイヤ、まさかぁ。あれは紅先生みたいな大人の女の人だから相応しいんだよ。きっと」

「そうか?」

「そう。私はまだまだこのおもちゃの指輪くらいじゃないかな」

眉を下げて笑いながら、シズクは籠いっぱいの駄菓子を会計に持って行った。
露店の前に残ったオレは さっきまでアイツが見てた品物にもう一度目を向ける。

……いきなり指輪ってのも、ハードル高ェよなあ。


*

夕刻を過ぎても明るい。鮮やかな夕暮れを見上げては、夏らしいな、と汗を拭った。
帰り道、木ノ葉を将棋で例えたら玉は誰に当たるのかと 先日アスマが出した“玉”の問いを、オレはシズクに話して聞かせた。

「アスマ先生がその話を?」

「ああ。アスマの奴、はぐらかしたまま帰っちまったからよ。答えはまだ聞いてねーんだけど。まさか単なるノロケで、玉は紅先生、とかいうオチじゃねーよな」

シズクは意表を突かれたって感じの顔をし、何やら意味ありげに口角をあげていた。

「ふふ」

「なんだよ気色悪い笑い方して」

「“玉”か〜。いやさ、廻りめぐってるんだなーって」

「何だよソレ」

「ふふ」

はぐらかして笑うコイツの手を握りながら、家路を辿る。

「話があんだけどよ」

「なあに?」

「最近 対“暁”で小隊が新編成されただろ。昨日正式に待機命令が出てよ。近日中に召集されるらしい」

召集がかかれば里を発つ。
以前カカシ先生に深刻な被害を与えた忍たち。我愛羅を攫い、一度は命を奪った忍たち。厄介な組織をいよいよ探すことになる。

「うん。綱手様から聞いたよ」 

立場上、シズクは小隊に編成されずに木ノ葉の防衛側に残る事になっていた。

「そうだよな。まあ そうそうめんどくせーことにゃならねェだろうしよ。アスマや先輩もいるし」

「うん」

心配そうにオレを見上げてくるシズクの頭を、ぐしゃっと乱暴にかき混ぜる。 

「んな顔すんなよ」

大丈夫なんて保証はねェ。だが、オレが任務に出てる間、コイツをあんまり不安にさせんのもいけねーよな。

「シカマル 気をつけてね」

「おう」

オレの手をいっそう強く握るシズクに、オレも小さく頷き返した。

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