▼夢
光がさしたように感じて、瞼を開く。視界はだんだんと色づきはじめ、鮮やかな緑を感じた。
気づけばわたしは、木陰に立っていた。
「…あれ?」
さっきまで白と戦ってたのに、彼の術で氷の鏡に閉じこめられたはずなのに、なんで森の中にいるんだろ。
「もしかして…わたし、死んだの?」
全身からさあっと血の気が引くような感覚に襲われる。ここは死後の世界?あのまま白に殺されちゃったとか?そんな まだわたしには―――
「頼む 耳を貸さんか」
そこで、不意に誰かの声が木霊した。
「?」
どうやらこの近くにいるらしい。ここがどこだかわからないまま動くのは、忍としては迂闊。
でもまずは事態を把握しなくちゃ。わたしは声のする方角へ慎重に忍び寄った。
森は案外すぐに開け、まもなく古い造りの民家にたどり着いた。里の建物よりもずっと古風で、山小屋と言ってしまってもいいようなくらい。
声の主たちはその家の庭先にいる。どちらも黒い長髪の、忍装束を纏った男のひとで、険しい顔をしている。一方の額には、木ノ葉のマークがある。
ここ、木ノ葉なの?
波の国にいるはずなのに?
それよりも、額宛をしてるほうの長髪の人を、見たことがあるような気がする。どっかで……えーっと、どこでだったっけ?思い出せない。
「理想は所詮夢物語に過ぎない」
「しかし 里の者がもう戦争を望んでおらぬと お前もわかっているであろう。マダラ」
まだら?
「甘ったれたことを。至る所で隠れ里がおこりはじめるのだぞ。戦わずしてどうする」
跳ねた黒髪の人の語彙が、徐々に荒くなっていく。戦争、勢力?なんかぶっそうな話だなあ。今声をかけてちゃ さすがに間が悪いけど、他にどうしようもないし、やっぱ尋ねてみなきゃ。
「あ、あの、」
「ストップストーップっ!」
木陰から出て2人へ歩み寄ろうとすると、民家の奥から女の人が姿を現した。
思わず息をのむ。
わたしが、いる。
なんで、何がどうなってるんだろう。まるで 鏡で自分を見てるみたいだ。いや、顔立ちは大人でずっと年上だし、彼女の髪は腰より長いんだけど、癖っ毛はまるっきり一緒だし。
でも もっと奇妙なのは、とつぜん姿を現したわたしに対し、三人が誰ひとりとして気づかずに、会話を続けていることだ。
このひとたちに、わたし、見えていないんだ。
「まーたケンカしてんの?相変わらず仲良いな柱間とマダラは」
その女の人が茶化すと、振り返った男の人の目は 赤く光った。
「これが喧嘩なものか」
「本当にカタいなあ。少しは肩の力抜きなって」
「お前はどうなんだ」
額宛の人は穏やかな表情を浮かべ、彼女に会話に意見を求めた。
「わたしは戦争は嫌いだよ」
「お前も脳天気だな シズク」
シズク?
「シズク!!」
次に目を開けたとき、そこは森でも氷の鏡の中でもなく、冷たく固い地面の上だった。
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