▼ 雲隠れにて(後)

「おーい、木ノ葉の使者さんよ!」

やや早足で廊下を進む私を引き留めたのは、雷影様の部屋にいた側近の1人だった。またもつまらない小競り合いをもとめられているのか思ったが、そうではないらしい。

「すいませんね、使者さん。先程はとんだ失礼を。雷影様は一度言い出したら聞かないお人なモンで」

大柄な体型に加え、大刀を背負うその忍。「あ、オレはダルイっス」と名乗り、会釈する。
私は自分の行動を恥ずかしく思い、何度か頭を下げた。

「……私は月浦シズクと申します。こちらこそ、先ほどの無礼をお許しください。雷影様はさぞお怒りでしょう?」

「まぁ、ボスは元から短気ッスから。問題ないでしょう。宥めんのはだるいッスけど、シーもいますし」

シーとは、先ほどいた側近の、もう1人の名前らしい。

「それよりさっきの手のケガ、だいぶ深いんじゃないスか?だるいかもしんないですけど、近くの病院にお連れしますんで」

ダルイさんは私が刃を素手で受けたことを案じてくれていた。雲忍がみんな雷影様のように豪気な忍ばかりだったらどうしようと思っていたけれど、どうやら違うようだ。

「ご心配には及びません。もう治ってます」

治癒能力ですっかり塞がった掌を広げると、ダルイさんは少し驚いたのち、これは面白いものを見た、というような表情に変わった。

「……アンタ、若いようでなかなかやるなァ」


*

私には先の雷影様との会話で気になることがあった。
我愛羅は、わたしにとっては友達だ。
そしてナルトは、仲間であり親友。
人柱力であろうとなかろうと、大切な友は誰1人として失いたくはない。
この里でだって、人柱力は他の忍とかわらず里の仲間なのか。雷影様にとって、人柱力のお方がどのような存在なのか。ダルイさんに待機室へ同行してもらう道すがら、迷った挙げ句にその話題を口にしてみたのだった。

「お尋ねするのは失礼なのかも知れませんが……雲隠れの里では、人柱力の方はどのような扱いを受けていらっしゃるのですか?」

雷影様の発言から察するに、彼は人柱力の実力を高く評価しているようだった。
前回の天地橋の任務で、ナルトは感情の高ぶりが原因で九尾のチャクラを暴走させたというし、忍が尾獣のチャクラをコントロールできる、ということにあまり実感がわかないけれど。

「詳しくはお伝えできないッスけど、人柱力としてチャクラをコントロールする実力あるものとして認められてるし、皆にも慕われてますかねェ」

「慕われてる?」

「意外っスか?」

「はい。木ノ葉の里では尾獣のことは極秘事項ですし……人柱力は永らく憎しみの対象とされてきたので」

「厭忌の対象から脱却するのは難しい、か」

「はい。でも少しずつ変わってきています。その人の仲間として、側にいる人は増えてます。私にとっても、とても大切な仲間です」

新しく仲間になったサイやヤマト隊長だけでなく、最近では里の人たちもナルトの頑張りを認めつつあるのだから。

「ヘェ それなら案外同じなのかも知れねェ。ウチの里の人柱力の忍も、オレたちにだって大切な人たちスからね」

大切な人たち。
窓の外には、自分の里とは違う町並みが広がっている。私たちの里と同じように、忍がいて、その帰りを待つ家族がいて。
両方ともそれは一緒なのに、雲隠れと木ノ葉隠れは戦い合った過去を持つ。
これからはせめて、そうなりませんように。

(もしかしたらナルトは…この里の忍たちや人柱力とも仲良くなるかもしれないなぁ)

そうなったらいいと願いながら。


結局、雷影様からの返事はノーであったが、あれをこうしろとか、こうするならば参加してやらんこともないとかの小言が多く、望み薄ではないようだった。
調整を重ねていけば、あるいはうまくいくかもしれない。
今度来ることがあれば里内の様子も見学してみたい。そんなことを考えながら、私は雲隠れを後にした。


雲隠れの人柱力である二位ユギトが暁によって里から連れ拐われたのは、奇しくもその数日後の事でだった。

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