▼雲隠れにて(前)

目の前に広がる風景を一言で表すとしたら、さしずめ“要塞”だろう。
雷の国・雲隠れの里。
かつて砂隠れの里を訪れたときもそうだったけど、忍の隠れ里って、まちの雰囲気がそれぞれにこうも様子が違うものなのだなぁと改めて実感する。

私の懐には機密文書の巻物がある。これを雲隠れに届けることが、私の今回の任務内容だ。
天地橋の任務から帰ってすぐ、火影様に言い渡されたこの指令に、私は初め猛反対した。なぜって、この機密文書の届け先が雲隠れの里長、雷影様であるからだ。
記憶は先日の綱手様とのやり取りに遡る。


「先の砂隠れ襲撃で我愛羅の一尾が奪われたように、これから各里の人柱力たちもいっそう窮地に立たされるだろう。この機密文書は、人柱力の守備を固めるために五大国で新たな同盟を結びたいという申し出だ。必ず雷影にお渡ししろ」

「それならば上層部やシカクさんや、適任の方にお任せした方が宜しいのでは?私のような若い忍が使者だと失礼にあたるかもしれません」

里同士を繋ぐ役割は自分にはふさわしくないと感じ、私では力不足だろうと提案するも綱手様は聞く耳を持たない。

「雷は五大国きっての実力主義国だ。老いも若いも関係なく、実力で判断する。尚更お前が適任なんだよ」

「ですが」

「それに、お前は里の令じゃなくても、本気で尾獣と人柱力を守りたいと思ってるだろ?ナルトを心から按じるお前だからこそ任せるんだ」

「はぁ」

「実のところな、参謀部のマジメな連中を派遣しても、雷影は内容に目を通しもしなかったんだよ。あのきかん坊のエーは簡単に首を縦にふるとは思えんしな…ハァ」

綱手様が手を焼くって、一体どれほどの人なの。



ボディチェックにはじまり、関所での身元の確認、挙げ句軽い尋問など、雲隠れの里での様々なやり取りを越えたのちに待っていたのは、本当に一癖も二癖もある、厄介な首領だった。
四代目雷影エーは筋骨隆々の大柄な方だった。その貫禄はレスラー顔負けだろう。木ノ葉の肉体戦闘派というとガイ先生や秋道一族が頭に浮かぶが、それとは全く異なる格闘派タイプだ。

「五代目火影より文を預かっております。お目通しいただき、雷影様のご返答を伺ってくるよう仰せつかりました」

「ええい火影め!何度も懲りないものよ!!」

述べて渡した文書を、なんと読まずにポイと放り投げたのである。
まじか。
きかん坊といわしめる所以を知った。

「しかも此度はこのようなガキを遣わすなど!」

それに関しては同感ゆえ、まあ良しとしても、だ。私は雷影部屋の隅に転がった巻物を拾い、再度雷影に献上した。

「私のような若輩者が使者として参った無礼を、どうかお許しください。しかし、この文書の内容につきましては、雷影様にお考えいただきたく」

「ええい!!しつこいわ!同盟など組まん!」

雷影は私の手の上の巻物をバシリと払い落とす。
三代目火影様に比べ、綱手様は強引な方だと思っていたけれど、この雷影様の比ではなかった。曲がりなりにも使者を前に、まるで聞く耳を持たない。これはただの横暴ではないか?
どうして頑なに自国の守りを固めようというのか。里の影たる人間がこう自分勝手で、里の人間は幸せなのだろうか。
ええい、こうなりゃ言ってやる。

「…失礼を承知で申し上げます。雷影様は尾獣を引き抜かれた人柱力の最期をご存知ですか?」

「何だと?」

「尾獣を抜かれた人柱力は死に至ると、雷影様もご存知のはずです。奴らの手にかかれば尾獣を奪われるだけではなく、人柱力である忍、ひいては里の忍たちも犠牲になる。そして、暁は単身でも隠れ里を陥落させる力を持っています。奴らに対抗するには、隠れ里同士が連繋しなければなりません」

「生意気な、我が里の人柱力が弱いとでも!?岩隠れの人柱力はどの里の者よりもチャクラコントロールに長けておるわ!」

「だからといって尾獣の人柱力が暁に優るという根拠はありません。此度の暁襲撃で狙われた風影様も、一度その命を落とされました。彼を蘇らせるにあたり、砂隠れの重鎮が命をお懸けになりました。人柱力をめぐる争いで、大事な仲間を失っても良いとお考えですか」

「……」

「どうかご一考くださいますよう。私は別室にて待たせていただきます」


巻物を今度は雷影の机に置き、私は頭を下げて退室しようとした。

「待て!!木ノ葉の使者よ、この雷影を愚弄しておきながらただで帰れると思うのか!!フン 同盟の件、お前がこのダルイとシーに勝ったら考えてやってもよいぞ!」

雷影は側に控えていた二人の忍を指差して言った。おそらく側近のその二人ですら、困惑した面持ちでいる。
無茶苦茶だ。この人は。

「お通し願いたい。私は戦いにきたのではないので」

「減らず口を!ええい!!ダルイ、シー、やれ!」


雷影は二人の忍に指示を出すと、側近は刀を抜き、私の前に突き立てようとする。なんてこった、全く呆れてものもいえない。私は向けられた二つの刃を素手で掴み、強引に刀を奪い放り投げた。

「どいてください」

血の滴る掌でドアノブを回し、半ばやけっぱちで部屋をあとにした。

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