▼帰らない部屋の主

1ヶ月に一度、サクラと私は、アパートのある一室を訪れている。
サスケが以前住んでいた部屋だ。
宿主は何もかも置いて里を抜けた。抜け忍として この場所に非難が集まる懸念は充分にあるが、今も部屋の家具や荷物は、ほとんどそのままに、処分されずに残っている。師匠の采配によって。

サクラと一緒に火影様に頼み込み、なんとか渡してもらえた、サスケの部屋のスペアキー。
宿主がいないのにこの部屋が維持されているのは、こうしてサクラがまめに、掃除にきてるからだ。
もともと私物の極端に少ない部屋でも、人が出入りしなければ荒れ果ててしまうから。
窓を開け放ち、新たに積もった塵を払い、布団を干して。棚の拭き掃除していたサクラは、伏せられた写真立てに触れようとして、手を引っ込めた。

サスケをこの部屋に連れて帰ることはできなかった。


「シズク」

「ん?」

「サスケ君は……この部屋のことも もう忘れちゃったかな」

今私たちがいるのは他でもないサスケの部屋なのに、サスケの存在は まるで潮騒のように、うんと近づいたかと思えばまた遠くへ引いていってしまう。

「サクラはそう思う?」

私が聞くと、サクラは少し間を置いて ちいさく首を横に振った。

「私……サスケ君が復讐のために生きるのを止められなくて、里を抜けるときも、一緒に連れていってほしいって、言ったの」

「……」

「木ノ葉の里じゃなくても、サスケ君がどこかで生きててくれるならそれだけでもいいって、そう思っちゃったのかもしれない。生きてさえいてくれれば、って。でも再会したサスケ君は、うちはイタチを殺すためなら大蛇丸に体を乗っ取られてもいいって言った。…それって……」

「我慢しないで。もっと泣いていいんだよ、サクラ」

サクラの横に立って肩を支えると、サクラの目からは止めどなく涙が伝ってゆく。サスケが去っていった後も、サクラはナルトの前で気丈に振る舞っていた。



「泣いたってサスケ君は帰って来ないでしょ!私もいる!私だって一緒に強くなる!!」


愛するひとに拒絶されたその心中は計り知れない悲しみに満ちている。

「サスケ君の気持ち、どうしても変わらないのかな……」

サスケがいつもひとりで行動していたのを サクラは見ていた。アカデミー時代にいじめられた経験のあるサクラは、サスケをひとりでいられるほど強いひとだと、そう思っていたのかもしれない。サスケに認めてもらいたいと願うようになったのかもしれない。
その恋はそこから始まった。


「私を愛さなくていいから、せめて自分を大事にしてほしい……」

今のサスケの生き方をも、どこまでも、受け止める気なのだ。サスケの孤独に触れて、サクラは本気でサスケの側にいたいと感じたのかもしれない。

「サスケくんに、幸せでいてほしいのに」

……サスケは大バカだ。あなたがあなたであることを、その笑顔を幸せを、誰よりも願う人たちが里にはいるのに。

決して諦めない。
サスケがイタチに復讐を果たしても木ノ葉に帰ってくる気がないことを痛感してしまった。
任務の岐路に、私は天地橋で起きたあらましをヤマト隊長から聞いた。
ナルトが怒りで我を忘れて九尾化したこと。サクラが止めに入り、傷を負ったこと。
サスケの選ぶであろう復讐の道は、私たちにとっての幸福じゃない。

再び合間見えるそのとき この部屋の主が戻ってくるように、私も手を尽くさないといけない。

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