▼ ボクの生きた証
ボクの研究室に連れて来られてからというもの、月浦シズクは抵抗を示さなくなった。彼女が死に物狂いで反抗するだろうと予想していただけに、内心それを望んでいただけに、期待外れだ。
せっかく研究材料を手中に入れたというのに。
サスケ君にはあんなに食い下がっておきながら、何故ボクの研究に興味もなければ反駁もない?この偉大な研究に?
「判るだろう この液体の成分表が。医療忍者であるキミには理解してもらえると思ったんだけどね」
「……」
憮然な態度を取る彼女を掴み上げ、首を絞めた。
「っ!」
「苦しいかい?」
ひゅう と息が途切れる手前まで絞め上げて徐に解放する。
「げほ……っ」
「往生際が悪いなあ。キミは立場を弁えるべきだよ」
血液を採取するために腕に針を指すと、彼女がようやく口を開いた。
「木ノ葉を裏切って実験を繰り返して、あなたは何を得たの」
「何を得たかだって?ここにそのすべてがある。いまに大蛇丸様でさえ果たせなかった高尚な成果がボクに現れるというのに」
「高尚な成果?」
「そうさ。チャクラの 忍術の全てを意のままに操る!本当の不老不死でさえ、もうボクの目の前にあるのさ」
「……」
「それなのにキミたちはこうもサスケ君に固執して……心の底では無駄だと思ってるだろう?キミはボクと同じ部類だ。敵方の子として木ノ葉で拾われ、育ての親は犠牲になった……あの里のために子供時代を奪われた。本当は里なんてどうでもいいはずだ」
「あなたと私が同じ?笑わせないで」
シズクははっきり軽蔑の色を浮かべてボクを睨んだ。
「木ノ葉崩しの後に、わたしはあなたの経歴を調べようとした。でもキレイに抹消されて何の情報も出てこなかった。私はそんなのは嫌だ。そうやって自分の生きた証を簡単に消せてしまうひとと、私は一緒にされたくない」
ボクはこれまで感じたことのない、怒りに似た感情を抱いた。
今まで自分を隠し、偽り、捨てて生きてきたこのボクが。
「あなたはどれだけ崇高な成果を残そうと、それを分かち合いたい人がいない。なのにどうやって生きた証が残るっていうの。カブト」
ボクは気付いたら彼女の顔面を思い切り殴り飛ばしていた。
彼女は拘束器具ごと地面に薙ぎ倒されている。鼻と唇からは血が垂れている。
余りにも不愉快になり、採血が続く中 ボクは部屋を出た。
用事はなんでもいい。離れられれば。
そこで、サイの部屋に木ノ葉暗部の資料を置き忘れてきたことに気がついた。
とにかく理由を付けて歩調を早めた。
払拭しようにも彼女の言葉が反芻する。
何が違うというんだ、僕と彼女と。
なぜ彼女はボクが履歴から追放した人間たちを思い起こさせるのだ。
「今日から私が、あなたのお母さんです」
「カブト、オレらとの三年間を忘れたのか?忍なんか辞めてオレたちの院に戻って来いよ!」
マザー。
ウルシ。
違う、ボクの生きた証はボクの忍術に残る。
施設のみんなとの絆なんか、ボクには要らないんだ。
*
口内に溜まった血をペッと吐き出し、私は頭を振った。
煽ってみるものだなぁ。おかげで拘束が解きやすくなった。
カブトが部屋を去ったのも好都合。
殴られ横倒しになったままの私は、チャクラを腕に集中させ、師匠譲りの怪力で拘束器具を引きちぎった。
「さて……見つからないうちにサスケを探さなくちゃ」
入り組んで複雑な構造のアジトを、僅かに感じるサスケのチャクラを辿って追尾する。最中に出会ったのは、大蛇丸でもカブトでもなく、サイだった。
「サイ!?」
「静かに。無事だったんですね、シズクさん」
「ひとりで何して……」
「ボクは任務を放棄しました。君達に協力する」
「は?」
「詳しくは後で。……サスケ君はあっちだ」
信じて良いものか躊躇ったが、心なしか、サイの様子が今までの雰囲気と違うような気がした。
あくまでも直感だけど。
サイの追跡で行き着いた一室。そこで体を休めていたのは、正真正銘、サスケだった。
先ほどのような言葉での説得が叶わないと判ってしまっただけに、手荒な手段をとるしかない。
サイが忍術で蛇を繰り出し、サスケの背後を先手取った。
「……誰だ」
「バレちゃいましたか でもボクはもう先手を取ってる」
「目的は何だ」
不機嫌に質すサスケに、サイは瞳に強い意思を宿し、断言した。
「ボクは君を木ノ葉へ連れ帰る!」
「サイ……」
「もっとも最初は君を殺すために来たんだけど 気が変わった。ボクは彼らが手繰り寄せようとしてるキミとの“つながり”ってのを 守ってみたいんだ」
ただの人形のようだったサイの瞳に宿るもの、それはナルトやサクラと同じ意思だった。
二人の思いがサイを変えたんだ。
「つながり……?そんなことの為に……オレの眠りを邪魔したのか」
だが説得も拘束も、大蛇丸のもとで力を得たサスケには、何ら効力がなかった。サスケはアジトの部屋もろとも吹き飛ばし、サイの術を霧散させた。
崩れたアジトに光が注ぎ、開けたそこに、駆けだしてきた二人ぶんの足音。
アジトまで辿り着いていたサクラとナルトは、サスケとの再会を果たした。
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