▼すれちがい

サイが何の指令のもとに動いているのか、大蛇丸一派が暁とどんな密約を交わしていたのか、それを知る術は今はない。
ナルトとサクラの願いだけは揺るがないものだった。サスケを木の葉の里に連れて帰り、やり直したいと。
大蛇丸の提案に乗るのは危ない橋をわたる行為。
シカマルとカカシ先生がどんなに怒るか、想像に易い。
それでも、ナルトたちが命懸けで繋ごうとしてる道を、無下にはしたくない。   

*

奴らのアジトは山中にあった。各地に似たような拠点を持って転々としているのだろう、最低限の場だけ備えているような、薄暗い地下施設だった。

暗いアジトのある部屋で、私はサスケに再会した。

「サスケ……」

姿が見えなくても、写輪眼の赤い光が煌めき、サスケがそこにいることを証明していた。
放たれる気配はもう以前の彼のものではなくて、手が震えそうになる。それでも平静を装い、私は暗闇に向かって声をかけた。

「2年半ぶりだね」

「……何でお前がここにいる」

声が低くなった。

「サスケに会いに来た」


返事はない。

「私、最後にサスケと会ったときに、会話らしい会話ができなかったのをずっと後悔してた」

「オレから見れば 奪われておきながらヘラヘラ笑ってるお前の方が理解できねーぜ。わかったような口きいてんじゃねーよ!」

「里だの仲間だの下らねェ馴れ合いにはうんざりだと、前にも言ったはずだ」

「馴れ合いなんかじゃない。仲間だよ!ナルトもサクラもカカシ先生もみんな、みんな大事なんだよ……サスケのこと」

「オレには必要ない」


ずっと後悔していた。
私が里を抜けようとしたとき、シカマルやみんなが本当に怒って、懸命に引き留めてくれた。それがあったから、私は里に居続けることができた。
サスケのことも、もっと全力で引き留めなきゃいけなかったんだ。

いっこうにサスケからの返事はない。冷ややかな空気だけが伝わってくる。真意を推し測ることさえ難しい。

「サスケ。一人で復讐しても先に道はない。一緒に木ノ葉の里に帰ろう」

あのとき彼に懇願した言葉を、改めて口にした。届かなかった言葉をもう一度、噛み締めるように。

復讐とは崖に身を投じるようなもの。そこに明かりはない。一人で果たしたらそこでおしまいだ。たった一つの道を絶ちきり、別の生きる道を見つけてほしい。

「ナルトもサクラも命懸けでサスケに会おうとしてる。だから、」

「オレはあの里に戻る気はない」

「サスケにその気がなくても、私たちはサスケに帰って来てほしいの」

横たわる沈黙は重いものだった。言葉少なな態度に、いっさいの迷いを切り捨てたような冷淡さ。
サスケ、今 どんな表情で聞いているの?
手を差し伸べるナルトやサクラは、サスケにとってもはや過去の記憶でしかないの?
一緒に過ごしてきた仲間の姿が、時間が頭を過ったりしないの?
ほんの一瞬でも、自分の未来に思いを馳せたりはしない?

これでは説得することなどできない。
まだ二言三言しか言葉を交わせていないけれど、私は最後の切り札を使うことにした。

「私は数日前に、うちはイタチに遭遇した。私はイタチに命を救われた」

イタチのことを持ちかければサスケが反応を見せる。
確信があった。
そしてそれは間違いではなかった。

暗闇に 赤い瞳がギラリと揺らいだのだ。

「うちはイタチは……自分の野望だけで一族を滅ぼすような人には見えなかった」

「……何だと?」

その一言がサスケの逆鱗に触れた。

目を見張るような速さで、私の喉元に刀の切っ先が突き立てられる。針の筵のように、殺気を浴びる。話を続けようものなら殺されかねないが、止めたらここまで来た意味がない。

「あの人は……サスケを大切にしたかったんじゃないかって、私は思う」

「憶測でものを言うな。首を飛ばされたいか」

「たしかに憶測かもしれない。でも……ねえ、サスケはどこまで何を知っているの。サスケの知っていることだけがイタチの真実なの?憎しみとは別の視点でイタチを考えたことが今まであった?大蛇丸はうちは一族の何を教えてくれた?」

「……」

「そこまで復讐をしたいならすればいい。けど、他の真実があったなら、今と同じ道を進める?何が本当なのか 木ノ葉に戻って探し直そうよ」

「さっきから……お前に何が解る?」

触れようと伸ばした手は拒まれ、そのまま突き飛ばされた。刀を鞘に納め、サスケは背を向けて暗闇に消えていく。

「サスケ!待って!」

ナルトやサクラが命懸けで繋ごうとした機会なのに。
サクラと約束したのに。
無駄にしたくない。

「お願い待って!サスケ……!サスケ!!」



友の気配が消えると、脇に控えていた薬師カブトが私の腕を掴んだ。

「――――キミの要求には応えた。ここからはボクの指示に従ってもらおうか」

*

カブトに誘導されるまま地下道を通り、一室に入れられる。数字の浮かび上がる液晶や点滅する装置、蛇や人体のホルマリン浸け。不気味に光る水槽。どうやらここはカブトが所有している研究室のようだった。
始めこそ本気で拒んだけれど、なされるがままに拘束器具を巻き付けられる。

「さて調べさせてもらうよ。まずは血液。そしてチャクラとその性質を解析しよう」

「……」

「キミの体に大蛇丸様のチャクラを流し込むのもいいね。キミが死なないか試してみなくてはいけないから」

サスケが手の届くところにいるのに。
こんなことしてる場合じゃない。

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