▼バカなんですか

私と大蛇丸は対極のチャクラを持つ。
故にお互いのチャクラは猛毒に値するのだ。私が掠られてすぐに治癒しないほどに。
忍術で繰り出される無数の大蛇を一匹また一匹と叩き斬っていく。ごとりと重い音を立てて転がり落ちていく蛇の頭、首の切り口に私のチャクラが効いているのか、新たな頭部は再生されなかった。

橋の方からは破壊音が激しくなっていた。肌に感じるおぞましいチャクラは大蛇丸のものではない。
人のチャクラではないものだ。
血で重くなっていく刀を我も忘れて振りかざす。
あと4匹。

「こんなところで油売ってるわけにはいかないんだよ!」

最後の1匹の首を落とすと、私は片手に一気にチャクラを放出させ、人1人すっぽり覆えるほどの球体を作り出す。そして残り1匹の蛇の首を掴み、あらんかぎりの力で引っ張り、大蛇丸の分身体ごと引き寄せた。分身が向かう先はもちろん、私のチャクラの球体だ。

「くらえ!」

大蛇丸は抵抗することなく、チャクラの中へと収まった。途端にその体はあざ黒く腐敗し、朽ちていく。しかし大蛇丸は苦しむどころか、嘲笑っているのだ。

「フフ、ハハハハハ」

「何がおかしいっていうの……!?」

「里を愛してる、ねえ。その内判るでしょう。アナタの愛しい愛しい木ノ葉がどんなに罪深いかを」

その後に続く言葉も無く、大蛇丸のダミーは塵と消えた。


捨て台詞の意味を考えている余裕はなかった。さっきまで轟いでいた爆音は途切れ、気づけば辺りはうってかわって静寂に包まれていた。急がなくては。
私はチャクラの流れを背中に集中させ、形成した羽根で木々を越えた。


広がっていたのは悲惨な光景だった。
天地橋は跡形もなく、地形は変わり、地面には災害の痕跡のような風穴がいくつもできている。
遠く向こうに、サクラの姿が見える。負傷しているようだ。ナルトも横たわっている。しかしその体は、遠目でもはっきり識別できるほどに赤く爛れていた。皮膚表面が焼失してしまったにちがいない。あまりの惨劇に、声も出ない。
これが、九尾の暴走による代償なんだ。

ヤマト隊長は側にいるけれど、サイの姿は見えない……もはやスパイ接触任務どころの話じゃなくなっている。


「サクラ、」

軌道を変えてサクラたちの下に降り立とうと思ったが、今朝サクラと誓った約束を、私は思い出した。

「どうしてもサスケくんに辿り着きたいの。ナルトやみんなに何かあったら私が必ず守る。だからお願い 約束して」

仮に今みんなと合流し、いっしょにナルトの治療をしようと提案しても、きっとサクラは「大蛇丸たちを追って」と言うだろう。まだそう遠くへは行ってないはずだ。
今奴らを追跡すれば、根城を暴けるかもしれない。サイもそう判断してサクラたちのもとを離れているとするのが妥当だろう。……或いは。

私は速度をあげ、最も被害が大きい部分にいる複数の人影の下へと急いだ。


*


計画通りに事が運ぶ手筈だったのに、突然地面に降り立った月浦シズクによって、ボクの計画に想定外の事案が発生した。

「サイとやら……じゃあ行こうかしら」

「待った!」

「!」

シズクはボクと大蛇丸、そしてカブトにチャクラ刀の切っ先を向け、行く手を阻もうとする。

「これはまた予想外ですね」

薬師カブトは眼鏡を押し上げ、少し意外そうに笑みを浮かべていた。
木ノ葉の医療班に在籍していた経歴からして、彼と月浦シズクとは顔見知りであるらしい。
そのカブトには顔を向けず、彼女は冷ややかな目でボクを睨んでいる。

「サイ 何の真似?私たちを裏切るつもり?」

「裏切るも何も、ボクは最初から自分の任務を遂行しているだけだよ」

「あとで詳しく話してもらうからね」

「やれやれ……空中分解した自隊をほったらかしにしてここに来るとはね。こちらは3人、君は1人。大蛇丸様だっているのに」

「あなたとは話してない」

「……三年経っても生意気なようだ」

シズクの言葉にカブトは眉根を寄せている。あれは不快感を露にしたときの表情だろう。
月浦シズクは警戒しながらも一歩ずつこちらとの距離を詰めていく。これ以上足止めを食えばボクの作戦にも支障が出てしまう。第7班の臨時隊長も、単独行動しているボクをそう長く放任してはくれないだろう。
大蛇丸を信用させるには、ここでシズクを殺すしか方法はない。そう判断し行動に出ようとした矢先、大蛇丸が口を開いた。

「カブトの言う通り、ワタシたちと戦うのは無謀じゃないかしら?アナタはもっと利口だと思っていたけど」

シズクが歩みを止めた。

「アナタはサスケ君に会いたいのでしょう?いいのかしら、こんなところで死んで」

「……」

「なんなら捕虜として連行してあげましょうか。私たちのアジトへ来ればサスケ君との念願の再会も果たせるわよ。その先の保証はしないけれどね」

感情を持ちえないこのボクにでさえ、大蛇丸の声には不気味さを覚える。カブトもまた嘲笑を見せていた。やはりいまここで、ボクから彼女を始末するべき。
抵抗しようが結果は一つ、死のみ。

―――しかしシズクの取った行動は、予想だにしないものだった。

「たしかに名案かも。お願いしようかな」

彼女は右手のチャクラ刀を皮切りに、クナイと手裏剣ホルダー、仕込み忍具の一切を、次々と地に落とした。すべての忍具を捨てたのち、シズクは両手を空に向かって降参を示したのだった。
目を疑った。
ボクの背後にいる薬師カブトも意外そうに息を飲む。

「抵抗しないでついてくから、私をサスケに会わせて。それだけ叶えてくれれば、あとは殺すなり実験に使うなり、好きにすればいい」

大蛇丸一派に利があるというのに、この状況でシズクは自分の能力を駆け引きの道具に持ち出してきた。

「随分と物分かりがいいじゃない」

大蛇丸は彼女の降伏を一層掠れた声で称えた。薬師カブトの顔からは笑みが消え、不審げにボクを見ていた。

「大蛇丸様、もしかしたら二人は手を組んでるのでは?」

「私はサイとグルじゃない」

「まあどうだっていいでしょう。この子たちに形勢を覆す力はないわ。カブト、良かったじゃない?前々からこの子の力を研究したいと言っていたたでしょ」

大蛇丸はどうだって構わないといった様子だ。
薬師カブトは沈黙の末、頷いた。

「決まりね」


*

シズクは大蛇丸の蛇によって拘束され、連行されることになった。
予期せぬ事態をどう対処するか。たしかダンゾウ様は、月浦シズクの能力を自らのものにすることを望んでいた。殺してすぐ遺体を回収すればダンゾウ様に届けられる。だが彼女が大蛇丸の手に渡れば、ダンゾウ様が長年水面下で動かしてきた計画も水泡に帰す。

川沿いで休息を取り、大蛇丸たちが追っ手用に罠を仕掛けている最中、ボクはシズクに近づいた。

「キミはバカなんですか」

「何が」

「自ら捕虜になるのは無謀だ。彼らが約束を果たすとは思えない。奴らのアジトへ着いて、キミは人体実験の被験者としてバラバラにされて死ぬのが関の山」

「手足を切断されたくらいで私は死なない」

「……」

彼女はこれから自分の身に何が起きるか恐れていないのか?
任務のためなら自分の命をも捧げる……まるでボクたち“根”のように平然としている。
彼女やナルト君やサクラさんたち正規忍者は、そのような教育で育ってきたわけじゃないはず。

「今最短ルートでサスケに辿り着くにはこれしかないの。ナルトたちの様子も気になるけど、なおさら迷ってる時間はない」

「キミはナルト君やサクラさんほどサスケ君に執着しているようには見えませんでした。それなのになぜ、キミまでうちはサスケに拘るんです」

「ナルトとサクラの願いだから。それに私だって、サスケともう一度、里の仲間としてやり直したい」

シズクは当たり前のように断言した。
彼女やナルトが抱く信念は、感情を持たないボクにとって、時に大蛇丸よりも狂気に感じる。

「サイにはいなかったの?やり直したいと思う大切な人は」

「……」

そう問われて、ボクの脳裏には幽霊のような人影がぼやけてくる。

「言葉に詰まったね。なんだ、いるんじゃん。大切な人」

思い出せない。
あれは……彼は。
ボクにとっての何だったのだろうか。

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