▼もう待てない

天地橋を目前に 作戦を振り返る。
まずはヤマト隊長が赤砂のサソリに変化し、スパイと接触する。ナルト、サクラ、サイの3人は後方の茂みに待機。私はそのさらに後方で待機し、4人の陣形に乱れをカバーする増援として戦線に加わる。
周到に、道中ではシミュレーションを何度も重ねた。


「ねえ シズク」

「なに?サクラ」

「少し話せる?」

目的地まですぐの山中へ到着したところで、サクラにこっそり耳打ちをされた。
ナルトとサイはヤマト隊長とフォーメーションの確認中。どうやら他の3人に聞かれたくない内容らしい。とはいえ、ヤマト隊長とサイは読心術を心得ているだろうから、結局のところ筒抜けなんだろうけど。

「頼みがあるの。これから小隊が怪我とか離散とか、なにかアクシデントがあっても、シズクに任務を続行して欲しいの」

「アクシデントでも、って……不利な戦況でも誰かが負傷しても、置き去りにして暁のスパイを追跡してほしいって意味?」

「ええ」

「それは約束しちゃだめなことだよ、サクラ。みんなを信頼してるけどさ、サクラだって忘れたわけじゃないでしょ?カカシ先生や綱手様の教え」

「忍の世界で ルールや掟を守れない奴はクズよばわりされる。だが 仲間を大切にしない奴はそれ以上のクズだ」「医療忍者は決して負傷するな。隊の仲間の治療をするという役目のために存在してることを忘れるな」

カカシ先生や綱手様から教わったこと。
サクラもきっと頭の中で反芻して、所在なさげに目を伏せたけれど、怯みはしなかった。

「教えはもちろんわかってる。でも私たち、この機会を二年半も待ったでしょ。もうこれ以上待てない。だって、いつまでサスケ君に時間の猶予があるか、誰も保障できない。今この瞬間にだって……」

待てない。
その言葉の重みは、サクラがサスケを想ってきた年月と、サクラのこの二年半の努力を思うと、胸の痛むものだった。
血の滲む修行の裏で、サスケの心を救えずに泣いた夜がきっと数え切れないほどある。

「どうしてもサスケくんに辿り着く手がかりがほしい。ナルトやみんなに何かあったら私が必ず守る。だからお願い 約束して、シズク」

サクラの決意は固かった。

「……わかった。約束する」

私たちはもうあの頃のように、力無い下忍ではないのだから。今度こそ手も、声も届くだろう。



ーーーしかし、現地で迎えたのは最悪の状況だった。



「面白そうな話ね。私も会話に混ぜてもらえるかしら」

スパイの正体は薬師カブト。
赤砂のサソリに忠実な部下ではなく二重スパイだった。
そしてあろうことか、大蛇丸まで現れた。
大将を連れてお出ましということは、十中八九、奴らはサソリを始末する予定だったのだろう。

「ところでアンタは誰だ?サソリを始末する予定だったのにとんだ手違いだよ」

「カブト この子のことは後で説明してあげるわ。それより後ろの子ネズミ三匹もここへ呼んだらどう?」

大蛇丸の言葉に、ヤマト隊長はナルトたちへ指示を出した。 私の存在はまだバレてないのだろうか。いや、大蛇丸に限ってそれはあるまい。今私まで出ていくべきではない。間を見計らってーーー

「あら、アナタまで出ていかなくていいのよ。ここでワタシが相手してあげるから」

最後方で隠れていた私に、背後から囁いたのは、他でもない大蛇丸だった。     

「!?」
 
大蛇丸は橋の上にいる。いま私が向かい合っているのはおそらく分身体か何かだろう。本体でもないのにこの覇気 三忍の名は伊達ではない。

「たしか……シズクとかいったかしら。今日はずいぶん懐かしい顔に会うわね」

「大蛇丸…!」

「悪いけど今は九尾の子と遊びたいのよ。アナタに邪魔に入られちゃ困るわ」

かつて死の森で出会ったとき、私は無謀にもこの怪物に挑んだ。しかし今回は状況も違う。大蛇丸と対峙した瞬間から、ナルトの様子がおかしいのだ。
一刻も早く合流しなくてはならない。

「それにしてもアナタがまだ木ノ葉に居るなんて意外だわ。とっくに里を離れたかと思ってた」

「私は里を愛してる。アンタと違ってね。サスケを返して」

「里を愛してるとかサスケ君を返せだとか、全く門違いにもほどがあるわ。勿体ないわね。アナタは実験体にでもなった方が有意義でしょう」

かすれ声の、しかし甲高い大蛇丸の笑いと共に、天地橋の方角からは大きな地鳴りが響いてきた。禍々しいチャクラさえ伝わってくる。
一体向こうで何が起きてるのか 早くこいつを巻くか倒すかしかない。
私は育ての親の遺産であるチャクラ刀を引き抜き、長い刃を大蛇丸目掛けて振りかざした。

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