▼波の国の戦い
応戦していたサスケとわたしは、突として乱立した幾枚もの氷の鏡に行く手を阻まれた。
自らが作り出した氷鏡のうちの一枚へ潜りこむと、全ての鏡に白の姿が写し出された。
膨大な数の千本がサスケとわたしを四方から狙って放たれる。
「伏せて!」
「ぐっ……!」
「サスケ君!!」
こちらの悲鳴を聞きつけたのか、サクラが白目掛けてクナイを放ったらしい。でも、鏡から半身身を乗り出した白の手によって容易く受け止められてしまった。
けれど、これは好機に転じる。サクラのクナイを注視したあまり、白は背後から迫る手裏剣には気づかなかったのだ。手裏剣が面を掠めた反動で、白の体は鏡からずるりと地に落ちた。
鏡の内側にいては見えないけど、この場に似つかわしくない明るい声で、わかる。
遅いよ、まったくもう。
「うずまきナルト!ただいま見参〜!!へへ、オレが来たからにはもう大丈夫だってばよ!物語の主人公ってのは大体こーゆーパターンで……」
ナルトが現れたほんの一瞬、白に隙ができた。
今だ。わたしは白の背後に回り込むと、彼の襟首を両手で掴み、勢いよく鏡の外側へ放り投げた。
白はこの鏡の術を使えばスピードを強化できるし、絶対の守りを手に入れる。だけど、鏡の場と彼を引きはがしちゃえばきっと 勝機はある!
「サスケ!下がって!」
倒れ込んだ白に、すかさずもう一打。チャクラを練った打撃が重かったのか、彼は唇から血を流していた。
「あなたの動きを封じるため足に集中して千本を投げたのに。君は回復能力の持ち主なんですね」
「殺傷能力の低い千本じゃわたしは倒せないよ」
千本を刺さった傷口から抜いてしまえば、あとはチャクラですぐにもとの肌に治る。破れた袖口に覗く肌には傷痕ひとつない。これがわたしの能力だ。けど、いくら傷の治りが早くても、白の能力との相性は悪い。
スピードのある氷遁使い。相性からしても下忍で対抗できるのはおそらくサスケだ。サスケに決定打を打ち込ませるまで、わたしが白を消耗させないと……。
わたしが白を秘術と遠ざけようとしてることに、白自身も気付いていた。彼は片手で印を組み、水遁でわたしの足元を奪うと、体勢が乱れる。何十本もの千本が、その隙にこちらに向けられていた。
動き止められるんなら、肩くらいくれてやる。そう、ワザと右肩に千本を受け、チャクラを練った左手で白の体を掴み、右手で鞘から短刀を引き抜いた。
「これで最後!」
思い切り短刀を振りかざす。けれど、彼の美しく長い黒髪に刃が届いたかというところ、首をはねる寸前で、どうしてか、刃を持つ腕が止まってしまった。
……できない。
殺せない。
「シズク、何してる!!」
カカシ先生の声が、遠くで響いた。そうだ、やらなくちゃ。ここで先に白を仕留められれば残るは再不斬ひとりになる。やるかやられるか、わたしだって彼だって、覚悟は出来てるはずなんだ。
なのに、わかってるのに体が、動かない。
「できない……!」
葛藤の渦に飲み込まれ、わなわなと体が震える。短刀はするりと指先から離れていってしまった。
「情けは命取りですよ」
白が印を組んだと同時に、背中のあたりに冷気が立ち込めた。聳えたっていたのは、1枚の、氷の鏡。
その表面から奥へと引きずられる。
「さようなら シズクさん」
白の囁きを聞きながら、わたしは鏡のなかに閉じ込められた。
この氷の鏡の内側は、白にしか適応できないのだろう。冷たいというよりは、痛さすら感じる。身動き一つとることが出来ないし、だんだんと息が、苦しくなってきた。頭が割れるようだ。体の末端から、感覚がなくなってゆく。
鏡の向こうでサスケやナルトが叫んでるみたいだ。
でも、聞こえないよ。薄れる意識に成す術もなく、わたしは身を委ねた。
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