▼くれるもの、かえせるもの

「今のはやりすぎた」

椅子に腰かけたシカマルが、あさっての方角を向いたまま口を開いた。
低くなっていた声はいつもの調子に戻ってる。

「……お前さ、暁に接触して 自分の身の危険とか考えなかったのかよ。下手すりゃ殺されてたかもしんねえってのに、話聞いてりゃ真相がどうのこうのって、ちっとも構っちゃいねェみてーし」

「私……暁の気配に気づいたとき、一人でなんとかしようって」

「だと思った。お前が強ェのはわかってるけど、もうちょい自分の心配しろ。一人で突っ走んなら 仲間は何のために居んだよ?それに…っつーか オレの身にもなってみろっての」

「シカマルの身になって?」

「逆の立場だったらってことだ」

もし、シカマルがひとり戦地に残って、帰って来なかったら。
単身で暁と接触したって聞かされたら?
傷ついたシカマルが脳裏に浮かんで、心臓が凍りつくようだった。
もしもシカマルの身に何かあったら、私は、立っていられない。
シカマルは私のこと いつだって心配してくれてるのに。

「ごめんなさい。私自惚れてた……大丈夫だって過信してた」

綱手様に嘘ついたのだって同じこと。信じてくれている人を自分の勝手で裏切ってる。木の葉には、こんなに心配して待ってくれてる人がいるのに。


「泣くなって。わかりゃいいんだよ」

涙ながらにシカマルを見ると、いままでの真剣な表情が、いつもの困ったような笑い顔に変わって。

「お前 いまひでェ顔だぜ」

とからかった。

「うちはイタチの言動は謎だけどよ。鵜呑みにするわけにもいかねーだろ。慎重に調べねえと」

「うん」

「それと、次単独行動したら今度こそ別れるからな」

「そ、それは絶対やだ!」

「なら守れよ 約束」

こんなにバカな私を、シカマルは叱ってくれる。間違っていると正しい方向に引っ張っていってくれる。少しぶきっちょに、とても優しく。

「あと、……いい加減起きろよ。これでもかなり我慢してんだからよ」

「え?……!あ、わわっ」

小さく叫んで慌てて体を起こす。
しまった。シカマルのベッドに押し倒されたままだったことを、ぼそっと呟かれるまで忘れてた。

シカマルの横顔、心なしか赤い。釣られて私も、さらに恥ずかしくなる。
今 はじめて深い 舌が触れるキスをして、でも シカマルと……それ以上のことは、まだ。振り返ってみれば久しぶりのキスだったし。

「あ、あの シカマルは……その…」

シカマルは そういうこと、したいの?
聞こうとするのにうまく言葉が紡げず、しどろもどろになる。これじゃ余計恥ずかしいじゃないか。
シカマルも私の言いたいことを汲み取ってくれたのか、小さいけどはっきりと聞こえた。

「オレたちにゃ……まだ早ぇだろ」

「そ……そうだよね うん」

まだ早い、か。
そりゃあ、そうだよね。
さっきは突然のことにびっくりしすぎて心の準備もできてなかったし、きっとまだ、私は幼すぎるんだ。

「……そういやメシまだだろ?母ちゃん何か用意してるみてーだし、降りよーぜ」

「う、うん」

いつか そうなる日がくるのかな。
真っ赤に火照った顔をごまかして、シカマルについて階段を降りていった。

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