▼いらだち

シカマルの部屋へ連行され、すぐにお説教がはじまった。

「関所で医療忍者とすれ違ったら お前一人だけ帰ってこねェって聞いてよ。クスシさんたち随分心配してたぜ」

「ご、ごめんなさい」

頭の中で様々な情報が渦を巻いていた。とてもじゃないけど 他のことを考えてる余裕がなかった。

「お前最近 謝りゃ済むって思ってねーか?」

「そんなふうには思ってないけど、謝る以外にできることがなくて」

「ハア……なんで隊長が身勝手な行動取ってんだよ。増援呼ぶなり何なり、選択肢はあるだろーがよ」

「ごもっともです」

「それにな お前また無茶苦茶な――――」

「あのさシカマル」

「おい!話は最後まで、」

「私 うちはイタチに会ったの」

「……は!?」

シカマルの話も途中に、唐突に切り出した。
綱手様に話すのは躊躇われたけど、シカマルには聞いてほしかった。
イタチが話した 私についてのことを。

捲し立てるように説明する間、シカマルは一言も口を挟まず 静かに聞いていた。

「どうすればいいんだろう。イタチの話が真実なのか出任せなのか、どうやったら確かめられるのかな。そもそも創世記の重要な情報だとして、なんで奴が知ってるんだろう……」

「……なあ」

「もしかしたらイタチは他にも、私たちの知らない情報を握ってるんじゃ、」

「おい!」

「え?」

はっと我に帰る。
憮然とした声に顔をあげると、シカマルはさっきよりももっと、険しい表情をしていて。
どうしよう、本気で怒ってる?

「あ、あの……バカやったのはわかってる。心配かけて本当に本当にごめんなさい」

「オレがなんで怒ってっか わかるか」

「隊をほっといて独断行動したから?」

「他には」

「えっ、えーと、救援を呼ばなかった」

「他にもあんだろ」

「イタチを見逃した」

「ちげえよ」

「ごめん!もうしないから、その あんまり怒らないで……」

黙ってしまったシカマルに、どうすればいいか分からなくなって、近寄ってその肩に触れてみる。
反応のない腕を、そのまま、後ろから抱き締めてみる。
体をぴったりと寄せると、忍服越しのあたたかい体温に、シカマルのしずかな鼓動を感じた。

いつもなら 私の甘えに「もう判った」とか「いいから離れろ」とか言って許してくれる。

けれど今日は違った。

シカマルのお腹に回していた両手を急に掴まれて、いとも簡単に引き剥がされてしまった。

「わっ、」

「お前 やっぱり謝って甘えりゃ済むと思ってんだろ」

「え」

苛立ちの色を含んだシカマルのつり目に、目を逸らせずしばらく見つめ合う。
握られた両方の手首から、じんわり熱い体温と、かすかな痛みを感じた。

「シカマ……っ!」

条件反射の謝罪。名前を呼びきらないうちに、唇を塞がれた。
強引なキスだった。
鼻先がぶつかり、唇が一度離れて またすぐ角度を変えて重ねられる。
いつものキスならここで終わり。けれど、シカマルの舌は さらにふかく唇を割りこんで、舌へ絡んできた。

ぞくっとする。なに、これ。

「んんっ」

潜り込んでくる舌に、歯列をなめられて。息が苦しくなってくる頃になって、ようやく唇が離れたかと思うと、今度は肩を押されて視界が反転する。

ギシッとベッドが軋む音。
背中を打つ、シーツの感触。
正面には、口を真一文字に結び、冷ややかな瞳をしたシカマル。

これってまさか……そういうことなの。
途端に 顔に熱が集中する。

シカマルは私に覆い被さって、再び顔を近付けてきた。どちらの手首も シーツに縫い付けられるように固定されて、身動きできない。
のしかかる体が重たい。ぼんやり見える肌や首筋は紛れもなく本人だけれど、荒々しい所作に、本当にシカマルなんだろうかと疑いたくなった。
掌、唇、そして絡む舌から伝わってくる熱と反対に、頭はどんどん冴えて凍りついてく。
どうしよう。

どうしよう、

「シカ、」

つう 唾液が伝い、急に離れてく唇。

「いいんだよな」

「え……?」

「オレがこのまま最後までやっちまったとしても、謝りゃ許してくれんだよな?お前が蔑ろにしてんのはそれとおんなじようなモンだぞ」

「!」

「辛ェ思いさせても、悪かったで済ましてくれんだよな」

「シカマル…」

「……」

そこで体を解放されたかと思うと、と小さく音を立てて、シカマルは静かにベッドから降りていった。

離れていく瞬間、悲しそうな横顔が見えた気がした。
低く呟かれた言葉が胸のど真ん中に鋭く刺さるようだった。

「……」

横たわったまま動けなかった。
どくどく 奇妙に鳴り響いたままの鼓動。もう一度名前を呼ぼうとしたけど、声が掠れて、うまく出ない。
すぐそばにいるのに、急に一人ぼっちにしてしまったような寂しさを、感じた。

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