▼運命という怪物

その名を目にしたのは うちは一族の秘密の場所だった。
写輪眼でしか読むことの出来ない記録に記された、待宵姫シャシという人物について。

かつて 荒廃した世に平定をもたらした忍の祖がいた。名を大筒木ハゴロモ。世には、六道仙人として伝えられている。
六道仙人には、二人の兄弟の他に、もう一人末の娘がいた。
それが待宵姫シャシである。

後継者問題で決別した兄弟の仲間を取り持つため、末妹のシャシは仙人よりある能力を与えられた。
それは物を治す力であった。
裂け目を塞ぎ、血を止め、修復する力。彼女の力は兄たちを強化する力である。

やがて時は流れ、
兄はうちはへ。
弟は千手へ。
そして妹は雨月へ。
転生を経て三人は巡り続けている。

「お前はシャシの直系の子孫ゆえに、治癒能力や特別な陽遁を扱える」

架空上の人物とされてきた六道仙人は、若い忍でも知らぬ者が多い。月浦シズクも眉を寄せ 手も刀の柄から離れた。

「相手を細胞を過剰成長させ 朽ちさせる白炎。かつてオレの黒炎を消したように、お前の炎は全てを無に還す。それは仙人の息子たちの争いを治めるために用いられるはずのものだった」

「……私が…人を生き返らせることができるって…ダンゾウの手下はそう言ってた」

「それはおそらく“螢火” ―――死者の魂を白炎に宿して操る術だ。死者の遺体が現存していればもとの体に宿すことができると、ダンゾウはそう見なしたのだろう」

「……」

「待宵はのちに兄弟の抗争をとめようとして、板挟みになり命を落とした」

「!」

「しかし 彼女の使命は残された子孫が何代にも渡って引き継いできた。うちはと千手が争い続けるように、お前の一族もまた」

生まれ落ちた運命は変わることはない。
いずれは彼女も。

「あなたなんでそんなことを知ってるの。どうしてそれを今 私に教えるの」

シズクはそれだけ呟くと、言葉を失ったかのように口を閉ざした。
長い沈黙がこの場を支配した。

「だいたい、そのうちは一族を皆殺しにしたのはあなたじゃない!」

彼女はうちはの真実を知らない。
だがオレとて ここで全てを教える義理はない。真実に辿り着けば、この忍はどんな手を使ってでもサスケにそれを伝えようとするだろう。
それではオレの計画全てが水泡に帰す。
誰にも オレの任務を悟られてはならない。

「今お前に教えたことに特段理由はない。信じるも信じないもお前次第……しかし、よく肝に命じておけ。お前の力は、千手とうちはの双方を強化する。いつまでも野放しではいられないと思え」



「イタチ お前は木ノ葉の出身だったな」

いつの日か 雨が降り続く暗い日。暁の装束を纏うようになっていたオレは、首領に呼び出されていた。

「木ノ葉隠れの里に シズクという名の少女がいなかったか?歳は……お前より五つほど下だ」

ペインから何か問われることなど今まで一度として無かった。

「知らないな」

「では……治癒能力を使う子どもはいなかったか」

「暁の目的は人柱力と思っていたが 他に探し物でもあるのか?」

「今のは暁とは関係のない話だ」

「……知らない」


「わたしはシズク。あなたはだれ?サスケのお兄さん?」


オレは以前 その少女に サスケの友に出会っている。
雨月一族と因縁のあるマダラではなく、なぜ雨隠れのペインが彼女を探している。

ペインはオレの返答に不満を抱いたようで、背を向け 離れていった。感情を現したのはその一度きりだった。
オレの耳は、去り際に彼独り言を掬い上げた。

「確かに木ノ葉にいるはずだ……。目的のためにはどうしても必要だ。我が娘が」





「シズクというのは……お前の名か」

「わたしの名前がなに?」

木ノ葉崩し後 ダンゾウへの牽制に、オレが里へ舞い戻ったとき。彼女は己が先祖も一族も、父も母も。果たすべき使命も何も知らない彼女に。
無知や無垢が どこか羨ましく思えた。

「歴史から消し去られた一族の末裔の…これも運命か」


月浦シズク自身が自分を木ノ葉の忍と思っていようとも、彼女の父と母が明らかになれば、里が彼女をどう扱うか 想像に容易い。

彼女はオレと同じ道を辿るのだろうか。
それはならない。そうでなければこの手を赤く染めた意味がなくなってしまう。オレのような思いをする忍など、この先いくらも出てはいけない。
運命は何と残酷な生き物か。

「あなたは 私の何を……どこまでを知ってるの?」

木ノ葉隠れの里を抜けた雨月シズクの生き残りが、逃げ落ちて、西の方角に位置する隠れの里にむかっていたとしたら。
その地で血が繋がれていたとしたら。

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