▼接触

里に未だ帰還しないライドウ小隊任務を探しに、私は医療忍者の第一小隊として国境沿いの現場までやってきた。

〈こちらホウショウ。目標地点に到着。一キロ先に隊員のチャクラを確認〉

無線越しの仲間の声に「了解」と短く答える。
ライドウ小隊は戦闘の末に一対一の泥沼戦にもつれこんだようだった。戦いに倒れた木ノ葉の隊員をひとりずつ探して回ることになった。

「ホウショウさんはそのまま痕跡を追ってください」

〈了解。この先は無線が届かなくなる。無線の圏内に戻ったらまた連絡する〉

「お気をつけて」

隊長のライドウさんはさらに判刻以上走った距離にいた。崖付近の岩肌に倒れている。数メートル先に同じく敵も地に伏している。胸から腹にかけての裂け目と、ライドウさんの手元に転がっている黒刀。敵は彼の刀毒にかかったようで 既に息はなかった。

「ライドウさん、わかりますか」

「…その声は…シズクか…」

「はい。救援にきました。もう大丈夫ですよ」

「すまないな… 敵は……?」

「問題ありません」

死体を横目に告げると、ライドウさんは そうか、と小さくため息をついて緊張の糸を緩めた。
傷口に手を翳し、すぐに治癒を始める。ライドウさんの怪我は切り傷少々と貧血、チャクラ切れ。幸い大事に至る外傷もない。良かった―――胸を撫で下ろした瞬間、私は何かの気配を感じ取った。

なんだろう。なにか“居る”。

「…どうした?」

私が掌仙術を使いながら周囲を見回したのを、ライドウさんは不審に思ったのだろう。

「残党か?」

「いえ、違います。でも…」

ほんの一瞬のことでその後は全く感じられない。けれど遠くから微かにチャクラの気配がした。
隣で息絶えている敵の残党とは気配の質が異なるので、恐らくはライドウさんたちのターゲットとは無関係だろう。
私よりも上手だ。
それに似ている。一度出会った脅威に。
…いや、そんなことはそうそうあるものじゃない。

「……」

どうするか思案をめぐらせている最中に、耳にあてた無線から再び声が聞こえてきた。

〈こちらクスシ。山城アオバを発見した。応急処置終了。カテゴリーはT、赤。命に別状はないが肩の損傷が激しい〉

〈こちらホウショウだ。神月イズモとはがねコテツの二名を護送中。両者共にチャクラ切れなものの軽症〉

「イズモさんとコテツさんは歩けそう?」

〈ああ。問題ない〉

「よかった。クスシさんが重症者を護送してます。ホウショウさんたちの方が近いので、合流して木ノ葉病院に向かってください」

〈そっちはどうだ?〉

「ライドウさんと合流しました。軽症。処置は終わりました。ただ…」

〈ただ?〉

「今回の敵の残党ではないけど、ここより南の森の先に強い気配を感じました」

追えば今回の救護任務内容に逸脱することになる。しかし、何者かを確かめる必要がある。

「私の影分身でライドウさんをそちらに運びます。皆さんは里へ帰還を」

〈おい、シズク〉

「わかっています。深追いはしません」

〈無茶はするなよ〉

「はい。これよりクスシ副隊長に隊長権限を委任します。頼みました」

〈了解〉

治療を終えたライドウさんを影分身に任せた後、本体の私は気配のした南を仰いだ。
本来であれば分身体を偵察に回して帰還を優先するのがセオリーだ。しかしそうしなかったのには、察知したチャクラが、三年前に接触した“暁”のそれに似ていたから。
我愛羅の奪還に向かったナルトたちが今どの進路にいるかは分からない。ただし、もしもこの勘が当たっていて、“暁”がこの近くにいるのだとしたら、我愛羅のこともなにか手がかりを掴めるかもしれない。
逃せない。

「…さてと」

ここで、感知タイプではない私が 消えた気配をどう追うか、方法はふたつある。ひとつは、忍カラスのカンスケを口寄せして追跡する方法。もうひとつは、最近使えるようになった術だ。
私は目を閉じ、印を組んでチャクラを両目に集中させた。

忍法、望遠の術!

自然と共に生きる部族は、山を見渡しどんな小さな生き物でも見つける目を持っているという。
忍も一般人よりは高い視力を持つ。そしてチャクラを視神経、視細胞に集めればさらなる能力を発揮できるのだ。写輪眼や白眼に遠く及ばなくとも、敵を感知するには充分だ。
目に負荷をかけながら追跡を深めると、岩山の中にひとつの影―――黒い装束に身を包んだ忍を、目撃した。

黒地に鮮やかな赤い雲の柄。

見覚えのある装いに冷や汗が流れた。やっぱり間違いない。奴は、


「余所見は禁物ですよ」

「!?」

背後に響いた声。思わず退いた、刹那。私の頭があった場所を、ブォンと大刀が掠めていった。

「いつの間にこんな距離にまで……!」

急ぎ間合いをとって呼吸を正す。この男はやはり 霧隠れの怪人・干柿鬼鮫だ。

「おやおや また木ノ葉ですか。今の今まで珍獣を相手にしてたというのに」

あなたとは何処かで会いましたかねえ。奴は大刀・鮫肌を軽く振って地につけ、悠長にそう言った。
また木ノ葉?珍獣を相手していた……?
気にかかるが、今集中すべきは他にある。

「あんたがいるってことは相方もいるの?」

岩場を踏み締める足音がひとつとしてなくても、気配で分かる。さっき望遠の術で黙視していた人物は 風のように一瞬で私の背後に現れた。
やっぱりいた。

「鬼鮫、今は遊んでる暇はないだろう」

「ですがイタチさん。自分の体で戦えずにイライラしていたところに丁度良く獲物が来たものでしてね」

前回はカカシ先生たちがいてなんとかなったけれど、今は私ひとりしかいない。
最悪の敵に前後を挟まれた。

「暁、お前たちは風影を狙ったな。我愛羅はどこにいる?」

後ろ手にチャクラ刀に触れながら隙を伺おうとしたところで、干柿鬼鮫があまりに事も無げにこう返したのだった。

「イチビの人柱力なら死にましたよ」

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