▼会いに行こう

蛇に睨まれた蛙。尻餅をついた男が、恐怖で表情を歪めて私を見上げてくる。

「ひぃっ」

ギャアギャア カラスたちが男の代わりに悲鳴をあげるかのように鳴き 一斉に飛び立っていった。男の前に立ち塞がる私の、殺気に怯えてのことだ。
男は懐にしまいこんでいた報酬をこちらに放ると、命乞いを始めた。

「これはいらねェ!情報も全部吐く!た、頼む!殺さないでくれ!」

獣の様な鋭い視線で以て、見極める。

「ほんの出来心だったんだ!!本気で賊に肩入れする気はなかった!村にゃ家族がいる…後生だ…」

もう、いい。必死の懺悔は鯉口を切る音で遮った。




――――スパァァァン!!

「痛ぁっ」

この木ノ葉に地獄より恐ろしい場所があるとするならば、ただひとつ。火影室だ。
そこには閻魔も恐るるような、五代目火影様がいる。
私の頬には赤い手形がみるみるうちに腫れ上がっていくが、グーでなくて命拾いをした。骨格が変形しないだけマシである。

「任務内容が頭に入ってなかったとは言わせないぞ?命令を突っぱねて……お前は英雄にでもなったつもりか!?」

「ちがいます!大名を襲ったのは確かに重罪行為です。でも、彼らは貧しい賊です。大名の命まで奪うつもりは毛頭ないと証言していて」

「だから任務命令を無視して鬼灯城に連れてったってのか。一体何様のつもりだ!?ああん!?」

語を荒げる綱手様。同席していたシズネも、困り顔だ。

「出過ぎた行為は重々承知の上です。その上で大名様方も説得してきましたし…」

「結果は結果で別だ。毎回こんな真似されたんじゃたまったもんじゃないよ。罰として今回の報酬は無し。今月は減給。明日の非番も返上だ」

「えええええええっ」

「今度やったら中忍に降格!わかったか」

「……わかりました」

依然として納得はできないけれど、他に責任のとりようもなく、私は渋々頷いて、執務室をあとにした。


「あーあ」

腫れの引いた頬を確かめながら、空を仰ぐ。
里に着いた頃には日も暮れてかけていたが、お叱りが長引いて、夜もすっかり深くなってしまった。

「また綱手様を怒らせちゃったな」

今回の任務は、大名を襲った犯人を始末することだった。しかし、追っているうちに敵が抜け忍の類いではなく、金品欲しさに悪事をはたらいた貧しい賊だと判って。結局命を奪うことができず、私は命令に背いて襲撃犯を鬼灯城に連行してきたのだった。

どちらが悪か、問いかけた敵がいた。
私が殺った。
忍の役目は与えられた任務を遂行すること。任務遂行に必要なのは、白でも黒でも灰色でもなく透明でいることだ。
頭では分かっているのに、どうしてもできなくなった。最近では、ますます暗殺に関わる任務の遂行率が下がっている。


「殺し合いなんてこんな不毛な世界、いつかわたしが終わらせてみせる!!」


冬のはじめに木ノ葉で起きた、鬼哭の一件からだろうか。それとも。

「わたしの一生をかけて、償うよ」

誓いを立てたあの日から、変わってきてるのか。
この里は仲間を大切にする。その裏で、仲間ではない人間には、どこか冷たい。
忍は相手が敵ならば人を殺しても許されるのだ。
殺す相手にも、同じように帰りを待っている家族がいるかもしれないのに。

いずれにせよ、任務に背いたのは自分本位な理由だ。その驕りも、重々承知の上。雲ひとつない美しい月夜とは反対に、私の心はもやもやとした感情を抱えていた。

「…もう一件謝りにいかなきゃ」

重い足取りで家路を辿るのはやめにして、私は背にチャクラを込めた。

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