▼今、いつか

「失うからこそ分かる。“千鳥”は お前に大切なものが出来たからこそ与えた力だ。その力は仲間に向けるものでも復讐に使うものでもない。何の為に使う力か お前なら分かってるハズだ」

オレの言ってることがズレてるかどうか、よく考えろ。
そう、目の前にいるサスケに向かって説きながら、オレは幼い頃の自分自身を見てるような気分になった。
形ばかりの掟に執着した末に、大切な仲間を救えなかった自分を。

「シズク 任務行こうか」

「えっ あ…うん」




シズクは黙りこくったまま オレの後ろをついて歩いてきた。サスケから完全に遠ざかり、正門を前にしたところで俄に足を止め、重たい口を開いた。

「サスケ あれ以上思い詰めたりしないよね?」

「……」

サスケの強さは、うちは一族の血筋にだけ由来するものではない。悲しきかな 力への執着だ。
サスケが大蛇丸に与するはずがない、この門から 里を取り巻く塀から出ていったりはしないよと、断言できたらどんなにいいか。

「ねえ先生、目的のためなら何だってできるって、そう思ったことはある?そのことのためなら何でもしてしまうような」

シズクは手をぎゅっと握り締めていた。

「わたし 怖いの。サスケの考えてること、少しだけわかる気がして。もしも……由楽さんを…あの人を殺した敵が、今も生きてたら――」

「考えすぎ」

オレは続く言葉を遮った。憎い敵が生きて現れたら。その先は、考えちゃいけない。
シズクがサスケとどこか似ているのは間違いなく、その言葉で繋がっているからだろう。
同期のこどもたちも うちは一族が何者かによって全滅した事実を知ってる。サスケの悲しみや孤独を察する人間はいても、しかし、憎しみの深さを感じ取れる友人は僅かだった。
シズクが映しているのは昔も今も、由楽なんだろう。
サスケ お前はどうなんだ。お前が探している人間は、ここじゃないどこかの、今じゃないいつかの 残像なのか。

サスケ、シズク。
お前たちの寂しそうな瞳には誰が見えてる。

「それに……」

「わかってる。そんなに心配しなくても大丈夫だよ。今のサスケならわかるはずだ」

誤魔化すようにシズクの頭を撫でると、こども扱いされてるのが気にくわなかったのか、シズクはオレの手首を両手で掴んで制止している。

「そうじゃなくて カカシ先生」

と、まっすぐにオレを見上げていた。

「さっき言ってた、カカシ先生の大切なひとたちって……わたしが前に、先生の夢で会ったひとたち……?」

ああ そのことか。
イタチの術で意識が戻らなくなったオレを、いのいちさんの術を使って、シズクは助けにきてたっけ。あのとき、オレの意識のなかで見ていたんだな。

「……そうだよ。お前が夢で見たのは オレのチームメイトや先生だ」

「前に慰霊碑に名前が刻まれてるって言ってた 先生の親友も……?」

「そう」

“そうしてもらっても結構なことだがな。あいにくオレには一人もそんな奴はいないんだよ。もう みんな殺されてる”

サスケの挑発に対するオレの返事を、お前、しっかり聞いてたのね。

「そんな顔しないの。さっきも言ったでしょ。オレにはもう お前たちがいるよ」

再び頭をポンポンと撫でて、曖昧にはぐらかす。
ねえ オレの過去をお前に打ち明けたら、お前は離れていってしまうかな。
もう無邪気に笑ってはくれないかな。
話したい。けれど、それは今じゃない。
いつかそんな日が来るといいけど。

「さ、任務に集中集中!早く任務を終わらせて、サスケとナルトとサクラと、五人で一楽にでも行こう」

「…はい!」



*

帰ったら、みんなで一緒にラーメン食いながら、ゆっくり話そう。
里に戻り、火影室を訪れるまでは、そんな悠長なことを考えてた。
けれど、現実は甘くない。

「サスケが里抜け!?」

サクラの制止を振り払い、サスケはあの日の夜に、木ノ葉の里を抜けた。
そして、中忍に昇格したてのシカマルを隊長に、下忍たちが仲間を連れ戻そうとサスケを追っている。
その中には綱手様が推薦したナルトも含まれているという。

「何ですって……それじゃあ新米たちだけでサスケを!?」

「仕方ないだろ。木ノ葉崩し後で里の状況が状況なんだ」

いままで上忍にくっついて任務に従事してたルーキーたちが、自分たちだけで戦いに出た。
綱手様から知らされた顛末に、オレの隣で、シズクは立ち尽くしていた。
自隊のサスケが里を抜け、ナルトが追っている。その上隊長に指名されたのが幼なじみのシカマルとくれば、動揺しないなんてわけはないか。

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