▼04 戦わずしてクイーンならず

(任務に関する供述、春野サクラの場合)

綱手師匠、こんな夜更けにお呼び出しって、何かあったんですか?
………え?
今回の任務でシズクの様子はどうだったかって?どうといわれましても、いつもどおり変でしたけど。あの…師匠、失礼かと思いますけど、テムジン君とゲレルの石の一件をお調べになってたんじゃなかったんですか?

いいから話せ?

…ハイ、了解です。

*


崖から落ちたナルトを探すため、私とシズクの分身体が道を迂回して、谷底まで降りた後の話です。
落下地点には緩やかな川が流れていました。砕けた岩石の合間を縫って探しても、ナルトの姿も、迷子のフェレットも、同じく落下した敵の姿すら見当たりませんでした。でも代わりに一人分の足跡を発見しました。

「忍サンダルの足跡じゃないわね…」

「あの騎士は甲冑にブーツ姿だったし、あいつでもないみたい」


鎧兵のものにしては小さすぎる。となると第三者のものになるわけですが、この足跡を辿る以外の手立てがあるわけでもなく。鎧兵の目を盗みながら、翌日の夜に、ついに手がかりを発見しました。


「シズク、これって野営跡と獣車の轍じゃない?」

「ほんとだ。このあたりは商人の往来もないし…もしかしたら、無事だったキャラバンにナルトが保護されてるのかも!」

どちらともなく顔を見合せると、思わず安心して笑みが零れました。まったくナルトのヤツ、心配させるんだから!

「轍も真新しい。あんまり遠くには移動してなさそうだね」

地上にすうっと伸びた二本線を追う足取りも、心なしかぐっと軽くなりました。
そうとなったら、まずは報告。


「シカマル、近くで規模の大きい野営の跡を見つけたわ。多分、私たちが会う予定だったキャラバンのものよ。ナルトは保護されてる可能性が高い」

〈そうか…とりあえず安心だな〉

「そっちは?」

〈潜入は切り上げた。今からお前らに合流する。サクラ、お前は安全そうな場所に身を隠したら、影分身のシズクに術を解くよう言っといてくれ。そしたらお前の居場所が判るからよ〉

「でも…私がすぐ轍を追えばナルトに合流できるんじゃない?」


〈駄目だ。どーせ1日中探し回ってたんだろ?ちっとは休め〉

「…わかったわ」

正直、そのままナルトの捜索を続けたくもあったんですけど。隊長命令ですし。前にいのも言ってたけど、シカマルってああ見えてちょいフェミニストなとこあるっていうか、そういうとこ結構律儀ですよねー。
そろそろ日付も変わる時刻。ここで万が一鎧兵に出会したら厄介だわ。小隊長の判断は正しかった。

「サクラ、ナルトが心配なのはわかるけど、体が丈夫なのが取り柄みたいなものだし大丈夫だよ、きっと。それよりサクラのほうがバテちゃう」

「…そうよね!」

「来た道に小さい洞窟があったよね。そこで夜営の準備しよう」


休むといっても、日帰り任務の予定で軽装備のまま来た私たちには、ブランケットも寝袋もナシ。木陰に背を凭れてゆっくり深呼吸でもしたら、それだけでも大分楽になれそうでした。

それはそうと、シズク ホント様子が変でしたね。
厳しい表情で辺りを見回してたかと思いきや、ふとした瞬間に、寄る辺のない目をこっちに向けたりするんですよ。私の手首をちらっと見て、しきりに首を捻ったり。

「どうかしたの?」

「え?あ…ううん、なんでもないの」

「アンタさっきからヘンよ。そんな顔してなんでもないわけないでしょ」

「うう…」

「何かあるんなら話してみてよ。言うだけでも楽になるんじゃない?」

「…そうかなぁ」

「そうよ」

「…結構どうでもいいことなんだけど―――…」

案外自供は早かったですね。
促したら、私がシカマルに腕を引かれて退避したときのことをなんだか気になる、とか言い出すんですよ?
思わず笑っちゃいましたよ。


「ちょっと懐かしい気もするの。シカマルに手を引かれて歩いたこと、あったなぁって」

「それ、どんなときだったわけ?」

「アカデミーのときだったかな。クラスメイトとケンカした後だと思うんだけど…めんどくせーけど守ってやるからって、手を引いて一緒に帰ってくれたの」

「へえー…あいつがねぇ」


呆れた。
それ、もう完全に告白してるようなモンじゃないの。

シカマルはシズクの戦闘スキルを熟知した上で信頼して任務にあたってるけど、実のところは危ない真似をさせたくない。
だからシズクを要塞の潜入に付き添わせたくなかった、っていうシカマルの本心、隠してるつもりでも、素振りを見てれば私にはバレバレで。

「シカマルも優しいとこあるじゃない」

「普段あんなにめんどくさがりなのにね」

イヤ、普段からシカマルはアンタには甘いのよ。過干渉とまではいかないけど。
相手にここまでさせておいて シズク、シカマルの気持ちすらろくに自覚してないのもすごい。

「シズクは昔みたいに腕引かれたいって思ったの?」

「…たぶん違うと思う。シカマルに守られてばっかりなのは嫌だし」

私としては、シズクのその複雑な気持ち、よく解るんです。
師匠に弟子入りする前、下忍になりたての頃から、私は任務に出る度にみんなに守られてたから。

好きな人に守ってもらえるのは嬉しい。でも、同時に、力の及ばない自分がすごく悔しい。
私もみんなを守れるくらい強くなりたいのにって…師匠も思ったこと、ありません?
守られる存在だけじゃ嫌。
でも触れられたい。
女心は複雑。
きっと、単に気を使ってほしいだけの嫉妬心ではないんですよね。

「っといけない。影分身解かなきゃシカマルが立ち往生しちゃうや。じゃあサクラ、気をつけてね」

シズクは慌てて立ち上がると、影分身の解除の印を結んで、煙に消えていきました。



「…ホント鈍感なんだから」

ひとりきりになったら、なんだかつい、笑えてきちゃった。
たしか、中忍試験のときでしたね。
シカマルのことどう思ってるの?って、シズクに問い質したことがあるんですよ。
あのときシズクは、シカマルは自分にとって大切な幼馴染みで、家族や兄弟みたいなものだ、って言ってたけど、シズクにとってのシカマルが 仲間でも兄弟でも家族でもなく特別な人物なのは明白でしょう?
師匠も、はたから見ててもお判りですよね。
気付いてないのはシズク本人だけ。
きっと昔と今とじゃ、関係はちょっとずつ変わってきてるはず。
シズクはいつか自分の気持ちを自覚するときが来るんでしょうね。

でも恋って誰かが教えてしまうのではダメで、自分で気づかなきゃいけないのかも。今回は任務に専念しなきゃいけないから難しいけど、そのときがきたら、私、友達として力になってあげたいなって そう思うんです―――あれ、途中から話がそれて恋愛話になっちゃった…これでよかったのかな…。
え?かまわない?
師匠がそうおっしゃるならいいですけど…って師匠、なんでそんなにニヤニヤしてるんですか?
てゆうかなんか楽しんでません?

そういえば…今まで聞いたことなかったけど、師匠はどうなんですか?
ナイスバディだしその美貌だし、師匠ってすごっい恋バナあるんじゃ…
え?ヒミツ?
ガキには早すぎる!?

そんなぁ…しゃーんなろー!
私たちのことばっかり聞き出しておいてズルいー!

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