▼百年

「人の」

そんな切り出しでいつも唐突に始まる。こいつは時折五歳のガキのような問いをシカマルに投げかける。空はなんで青いの、鳥はなんで飛べるの。無知ほど手間のかかるものはなし。知らないこと、知りたがりのシカマルの苦手とすること。


「時間の基本単位ってどんくらいかな」

今日のは文学小説にいかにもありそうな話題だと思えた。1日か。シカマルはめんどくさがりな割に考えることはそう苦手でもないので、なんとなくでいつも返す。曖昧に抽象的な発言が飛び出すときは十中八九あっちが答えを用意している場合だから。ふうん。なるほど。彼女が頷く。

「お前は?」

「わたしは百年かな」

「寿命ってことか」

「忍は短命な人多いけど」

「まぁ百年よりは五十に近ェっちゃ近えしな」


百年に捕らわれない男をひとり、シカマルは知っている。生き埋めにしてからやっと一年が経つ。まだ一年しか経たない。百年までどころか相手は永遠なので、道のりは長い。彼女のいう百年を単位としてオレ、その子供、またそのガキと考えていって何人分の百年が費やされるのか。


シカマルは長生きしそう。こう、縁側でさ。猫だっこしてお茶すすりながら将棋うってるの。口が梅干し食べたみたいになってる猫背のおじいちゃん。


「じゃあお前もっと将棋上達しねーとな」


将棋の相手がこんなに弱くては百年は退屈だ。隣の、それってプロポーズみたいという笑いを無視して、駒を手に。一年でも百年でも千年でも、細々と続いていくならそう悪くない。家と休みと将棋とそれから。

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