▼七夕かざり
アカデミーの屋上は風通しがいいぶん、この季節にしては幾らか涼しい。
木ノ葉の森から切ってきた笹は大人の背丈をゆうに越えた高さで、とてもじゃないけれど、アカデミー生が短冊をくくりつけるには高すぎる。
つまり雑用である。
笹の葉が揺れて、カサカサと軽やかな音をたてていた。
「見て、これかわいい。『おひめさまになれますように』だって!」
こどもの悩みは素直で単純でいいなとシカマルには思えて。
低い位置にはシズクが、高い位置にはシカマルが、それぞれ色とりどりの短冊を手にして丁寧にくくっていく。
「『しゅりけん術がうまくなりますように』『火影になれますように』…あ、これ影の漢字間違ってる」
シズクはひとつひとつ読みながら飾り付けているのか、作業ペースが亀の歩みのよう。シカマルははやく終わらせて帰ろうと、珍しくてきぱきと短冊に手を伸ばす。
「みてみて、『オガサワラチビヒョウタンヒゲナガゾウムシがとれますように』だって」
「誰だよんなマイナーな…」
「あっ、これ書いたのシノだ」
「なんであいつが書いてんだよ!」
しかしシノの短冊を皮切りに、同期メンバーの短冊が次々と出てきた。強くなれますように、おいしいものがたくさん食べれますように、今年こそいい男が現れますように、そんないのの野望が打ち砕かれますようにと書いてあるのは多分サクラだろう。女って心底おそろしいとシカマルは身震いした
数時間を費やしてようやく完成した笹の葉飾りを、一歩下がって見上げた。こうして見るとアカデミーも生徒の人数が多くて、なかなかに時間がかかったものだ。クリスマスツリーほどの巨大な笹に、カラフルな短冊が揺れている。笹の葉さらさら。夏の夕焼けに照らされていっそう風流に思えた。
シズクがシカマルのとなりでふうと一度けのびをして、余った白紙の短冊を手にとった。ペンを片手に唸っている。
「んーっ、わたしはなに書こうかなあ」
「この年になってまだ願い事すんのかよ」
「七夕はサンタさんじゃないもん。シカマルも書こうよ」
シカマルは強制的に握らされたペンと短冊にため息をつく。願い事なんて、ほんとうに切羽詰まった願い事ならこんなとこに書く前に叶える努力をするものだけど。まあ対して願いもなければ、自分はそんな努力家でもないということで。
「なんて書いたの?」
「『休みくれ』」
「何か違うよ」
「みんなこんな感じだろ」
どうせ五代目に言えないんだし、とシカマルがそこら辺の余ったスペースに自分の短冊をくくりつけている間に、ようやっとシズクも書く内容を閃いたようで、鼻歌まじりにさらさらと筆を動かしていた。
「できた!シカマル、わたしのはてっぺんに飾って!」
「ハイハイ」
得意気に手渡された短冊の文字になんとなく目を通すなり、シカマルは耳まで真っ赤になって。その様子を見て、シズクは満足げに笑みを浮かべ、シカマルに顔を近づけて囁いた。
「願い事、叶えてね」
一年に一回なんて足りない、いますぐ会いたい。
(今日キバの誕生日じゃねーか)
(あ)
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