▼02 unknown

(任務に関する供述、月浦シズクの場合)

国境付近で奇襲に会ったときのことですか?
…はい、そうです。綱手様のおっしゃる通り、橋を渡った後は偵察パターンに切り替えて、シカマルが西、私が北、ナルトとサクラは東でそれぞれ村に接近しました。
わたしの方はどうだったか、という話ですね。

インカム越しにサクラの悲鳴が聞こえたのと、ちょうど同じタイミングだったでしょうか。急に背後から奇襲を受けたんです。かわして目に入ったのは、茶黒の鎧の大男。そして、見慣れない銀白の甲冑を纏った謎の人物でした。
海の向こうの異国には“騎士”とかいう戦士がいるって、本で読んだことがあったんですけど、ちょうどまさしく、それです。
騎士。
白い騎士の動きは非常に身軽で、剣の扱いにも相当長けているようでした。鎧兵のほうは星球式の鎚矛を振りかざすんです。パワーは並の忍者のものではありませんでした。

「シカマル!敵襲2名!」

2対1はやはり分が悪い。無線へ向かって叫ぶので精一杯。

〈そっちもか!〉

「どうする?」

〈シズク、ナルトたちの方角で合流だ!〉

「わかったっ」

無線が途絶えると、今度は正面に回り込んだ敵方の声が耳に入りました。

「村人の残党か」

少年の声。小柄でしたから わたしたちと同じ位の年齢なのでしょう。やはり彼らが、村を襲った犯人。

「これはアンタたちの仕業なの?」

「…」

「答えて」

投げやりに叫びつつ片腕にチャクラを込め、前方から攻撃してきた鎧兵に渾身の一発を食らわせました。けど妙なことに、手応えがまるでありません。綱手様直伝の怪力を食らわせたにもかかわらずですよ?鎧兵は呻き声のひとつ漏らさずに地面に倒れ、代わりにまた別の兵が、のっそりと茂みから現れました。代えの利く傀儡みたいに。
視線をわずか落とした瞬間、わたしに隙が生じたのでしょう。顔をあげると、白い騎士が剣を真っ直ぐ前に突き出したのが見えました。距離が開いてた。それで油断しました。騎士の胸元がぼんやり光ったかと思うと、剣先が突如として雷光を纏ったんです。

「なっ、」

「魔導昇雷撃!」

印も組んでいないし、チャクラの波も全く感じられなかった。おまけに、ライジングサンダーって、彼たしかにそう呟いたんですよ。あれは果たして忍術だったんでしょうか。
その威力は洒落にならなくて、ナルトの螺旋丸と同等の破壊力だったんじゃないかな。視界が眩しくなったのが災いして、わたしは待避が一歩遅れて。
軸足に食らい、激痛が走って。

「……っ!」

雷撃で麻痺した足じゃどうにもならない。そう思ってすぐに掌仙術を始めると、わたしの目前で敵が突然足を止めたんです。チャクラの治療をはじめて見るかのような、物珍しいといった表情で。
無防備になったのは、今度は敵の方でした。

「忍法・毒霧!」

至近距離まで近づいた騎士に紫煙を燻らせ、わたしは回復させた足でナルトたちのもとに向かいました。

*

奇妙な鎧兵。チャクラコントロールなしに繰り出される騎士の技。不可思議なことはそれからも続きます。
ナルトたちのもとへ全速力で駆け付けたつもりだったんですけど、驚いたことに、到着した地点にはつい先程撒いたばかりの騎士が、ナルトと衝突していた。
一体どう移動したんだろう。
もう、空を飛んでたとしか考えられませんよね。

シカマルも既にサクラと合流していて、鎧兵の一人を影真似で手駒にとっていた。

「ナルト、こっちは任せろ!」

「オウ!一気にカタつけてやる…多重影分身の術!!」

その多重影分身も、白い騎士の剣が放つ気流でいともあっさりと蹴散らされていきました。そして、ナルト本体と騎士の一騎討ちになりました。
ナルトの螺旋丸と敵の雷、術の拮抗は凄まじかった。同士のぶつかり合いで衝撃波が吹き荒れ、地滑りが起き、両方共に崖から投げ出されてしまったんです。

「ナルトォー!!!」

為す術なく、二人の姿は見えなくなっていきました。
サクラの叫ぶ声も、深い深い谷底に吸い込まれて。

どれだけ眼下を見下ろしても、ナルトの姿は捉えられませんでした。

「くそ」

シカマルが舌打ちするのが聞こえました。

「シカマル、すぐに追、」

追いかけようと言おうとした刹那、そこにさらなる振動と地響きが足元に伝わってきたんです。わたしたちの背後の峰からは、険しい岩山を強引なまでに打ち崩しながら移動する、巨大な鉄の要塞が姿を覗かせていました。

「なんだありゃ…!?」

もう、何が起こってるのかちんぷんかんぷんでしたよ。
それに――

「それに、何だ?」

ここにきて急に口を噤んだシズクに対し、頬杖をついて傾聴していた綱手は先の言葉を急かした。
「いや、その…失礼しました。これはあんまり任務に関係ないというか」

歯切れの悪い返事でごにょごにょと濁すシズクに、綱手はしびれを切らした。

「言い淀んでないであったことは全部話しな!」

「ええ〜」

「さっさとしろ!」

シズクは唇を尖らせてしぶしぶ口を開く。

「…身を隠す必要があったので、振り返って二人に声をかけようとしたんです。そしたら」

「そしたら、何だ?」

「こっちだ!って、シカマルがサクラの手を引いてるのが見えたんです」

「それがどうした」

特にこの場で議論に上がる事柄ではない。謎の要塞の襲来、危険と思われる状況下でも、ナルトが気掛かりでサクラは足が動かずにいたのだろう。それでシカマルが先導した。咄嗟の判断で仲間を気遣うさりげない動作。小隊長であろうがなかろうがごくごく当たり前に見られる行為だ。
けれどシズクは、自分でもよくわからない、といった困り顔で続けた。

「なんでかなぁ。わたし あの時、胸がちくっと痛んだんです」

普段の綱手ならば、オイ誰が嫉妬まで話せといったんだ、事件の話をしろ!そんなふうに怒声を飛ばすところだった。しかしこの時ばかりは、綱手は部下に怒鳴りもせずに珍しく沈黙していた。
否、白けてしまったといった方が正しいか。

「ナルトの安否も判らないときだっていうのに、あとから考えると、なんでかそのことばっかりひっかかって…一体なんで気になるんでしょう?」

綱手は悟った。月浦シズクは13歳にもなって、己の恋愛感情にも嫉妬心にも 全くというほど気付いていないのだ、と。
自分の気持ちを自覚してないガキにわざわざ「お前ソレ、ただの嫉妬だろ?」と突きつけるのも気が引ける。流石の綱手ですら閉口せざるを得なかったのだった。

「ったく、どいつも鈍感だねぇ」
「え?」
「その件はいいから、話を続けな」

本人に聞こえないように、綱手の口から小さな溜め息が漏れたのだった。

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