▼world end

任務帰りに三代目の式を受け取った。

そこからどの道を走って帰ったのかは覚えていない。

扉を開くと、今日の空と同じ灰色の部屋で、由楽のからだがあった。自慢の顔はきれいなままなくせに、その背中はなによ。敵の起爆札モロに食らってくれちゃってまあ。

なあ、覚えてるか。
最後に会ったあの日 お前は言ったでしょ。

「カカシ、好きだよ」

あのとき、お前はどんな顔してたの?
引き止めていれば良かったのか。追いかけていればなにかが違ったのか?
聞きたかった言葉は永遠に失われてしまう。オビトもリンも先生も死んだあとで、由楽、お前だけは死にやしないなんて どうしてそんなふうに思っていたんだろうな。
近すぎて気付けなかったんだ。お前を女として見ていたかは分からない。けど、オレは、ばかみたいに笑ってばかりいるお前が好きだった。オレをいつも引っ張っていくお前が好きだった。自分の体の一部みたいに感じてた。ただ大切だった。

これが愛だったのかな。

寂しいでしょ。オレも一緒にそっちにいってやるよ。なーんてこといったら、お前はだめだって怒るだろうな、わあって暴れてさ。でもだめなんだよ、立ってられないんだ。
お前がいなければ。
冷たいであろうゆびさきに、せめて一度だけ触れたい。暖かい温度が伝わってくることはなくても。


オレの人生は、いつも間に合わない。



「…カカシ、いいかの」

三代目が呼んでる。いかなくちゃならないみたいだ。

今までで一番やわらかな 由楽の顔を両の目に焼き付けて、扉に手をかけた。

「カカシ シズクのことだがの、せめてもの防衛本能が働いたんじゃろう。由楽が息を引き取ってすぐに意識を失ったそうじゃ。シカクの小隊が無事保護して、今は警務部隊の一室にとどまっておる」

「そうですか」

「目を覚ましてからは一言も声を発さず、何も飲まず食わずで……」

「敵は」

「全員自害した」

「そう ですか」

「謝って済むものは何一つないが……すまなんだ。ワシが甘かった。全ての責任はワシにある」

「火影様は充分に責務を果たされました」

「……里の掟に乗っ取って、関所に保管してあった
由楽の遺書を開封した。遺言に これをお前にと」

三代目は懐から包みを取り出すと、それをオレに差し出してくる。包みをひらくと、由楽が下忍のころから愛用していた、もう何年も使われてないチャクラ刀が姿を現した。添え文はない。ただ包み紙の内側に、下手くそな大きな字で一言。

“カカシは先生とか向いてると思うな”

意味が解らない。
その言葉でさえもこの心を八つ裂きにして、音もなくばらばらにした。

「もうひとつ 遺言には、カカシ おまえをシズクの後見人に指名するとあった。あの子を引き取るかどうかは……無論お前の意思次第だが」

「……」

「どうする?」

「……オレには無理です」

そう告げた。

*

かつ、かつと、わざと廊下で足音を響かせて部屋の前へきた。シズクは膝を抱えていて、開いた扉からまっすぐ流れる影は お前の闇みたいにふかく黒かった。見上げた先、オレを見つめてお前は呟いたね、

「か、かし」

オレは聞こえないフリをした。
もうこれ以上いっしょにはいられない。髪に、指に、額にその目に、どうしてか面影があるんだ。
この子さえいなければ惨い事件は起こらなくて、由楽はいまでも隣で笑ってただろうと、そう、恐ろしい考えが胸を貫いてとまらない。

切実な視線から逃げて、その訴えを無かったことにした。
好きな人と共にいることすら叶わず、閉ざされた扉の奥でお前は独りだ。
そしてオレも。

彼女のいない、なにもない明日がくる。
ねえなんで、お前ひとりでいっちゃったの。由楽。

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