▼作戦会議
先発の暗部と合流するべく、カカシ先生とわたしは里を出て一山越え、合流地点へと向かいました。
「これが集合場所?」
山中に新築の木造二階建て家屋があったら誰だって怪しいと思うはず。いったいどうやって生木の屋敷をこしらえたのでしょう。
「ここで合ってるよ。保証する。ま、この術をはじめて見て驚かないヤツはいないけどね。入ろう、月乃」
「はい、助亜さん」
今回の任務は暗部と合同ということで、コードネームを使用することになりました。わたしは月乃。カカシ先生は助亜と書いてスケア。なんだかじっくりこないけれどしばし我慢です。
カカシ先生はなんてことないように戸の前に立ち、足を踏み入れました。照明のない室内の階段を一段、また一段と上がる度に明るさが増していきます。辿り着いた二階では、仮面を付けた二人の暗部が蝋燭を囲んでいました。
「よ、テンゾウ」
お知り合いでしょうか。先生のラフな挨拶に対し、猫の面をつけた方は少し不服そう。
「ちょっと先輩 その名で呼ばないでくださいよ。今回は“猫目”って書面にあったでしょう」
「すまんすまん。ついクセで」
テンゾウと呼ばれた忍の後ろでもうひとり、長い髪のくノ一もカカシ先生に軽く会釈をしていました。
「先輩。ご無沙汰してます」
「ああ、久しぶり」
どちらもカカシ先生の顔見知り―――きっと、暗部時代の同僚か後輩にあたるのでしょう。暗部の面は蝋燭の明かりに少し不気味にユラユラと揺れていました。
「今回はコードネームは使うが、変装で潜入する算段だし面は必要ない。悪いんだけど2人ともさっそく暗部面取っちゃって貰えるかな」
カカシ先生…否、助亜さんに促され、二人は特に躊躇もなく、面に手をかけました。
蝋燭に照らされるくのいちの横顔に、見とれてしまいました。
艶やかな黒髪や佇まいから、きっとすてきな女性なのだろうなと想像しましたが、息をのむほど美人なかたです。どことなく紅先生に似てるかも。
「わ…」
思わず呟くと、「ありがとう」と彼女は微笑んで長い瞼を伏せました。瞬き一つとってもオトナな色香を感じます。
「私は“白露”。よろしくね」
テンゾウさんにも、驚きました。“猫目”のコードネームそのままに黒目がちで、真顔が怖めというかなんというか 一部の隙もない。やっぱり普通の忍と暗部の忍では纏う空気が違います。
「さっき先輩はああ呼んだけど、今回ボクのことは“猫目”と…」
「よろしくお願いします。白露さん、テンゾウさん」
「挨拶も済んだとこだし、諜報の成果を教えてちょうだい。テンゾウ」
「…ハイハイ。もういいですよ。テンゾウでも」
*
猫目さんの報告によれば 抜け忍集団のアジトは、木ノ葉を基点として北と南の2箇所につくられている。
北のアジトは亀ヶ山、南のアジトは千羽谷。その配置は、無論、木ノ葉を挟み撃ちで襲撃しようという計画のためでしょう。どちらのアジトも、木ノ葉の転覆を目論む抜け忍を筆頭に、流れ者の傭兵、行商、遊女、孤児を囲い、ただの集落を装っている。
「まだ両アジトに潜入してはいませんが、一部の行商を囲って 木ノ葉の忍具を多数所持している。木ノ葉の忍に成り済まして里に攻め入るのも容易いでしょう」
と、猫目さん。
「それだけじゃなさそうだな。北にあるアジトが雲隠れに近いのも気にかかる。裏で手を組んでなきゃいいが」
抜け忍集団は軍事集団に同じ。筆頭は確実に根絶やしにしなければいけない。
「それぞれのアジトの主犯格は割れてるの?」
「はい。まず亀ヶ山にある北アジトの首領は、元岩隠れのイチイ。ビンゴブックではA級ですね。奴は心伝身のような忍術を使い、アジト間の情報伝達の要になっています。他にも各国の抜け忍リストにある曲者たちが多数潜伏してます」
「南のアジトは?」
「南アジトの千羽谷には名の知れた抜け忍はいませんが、行商や遊女、情報収集する女子供が思想に共感して谷に集まってきている模様です」
「見たところ主戦力は北アジトか…」
「状況を把握しながら対処しろ。さほどの脅威でないなら主要人物以外は“鬼灯城”送りでも構わん。お前たちは増援に加わり、討伐に協力しろ」
綱手様の指令が頭を過ります。
「あの…それでは、南アジトの忍でない人たちは……鬼灯城送りでも?」
危険度が低い者たちと判れば命を取らずに済むかもしれない。そう思っての言葉に、三人はしばらく黙ったままでした。そして沈黙の後、質問に答えることなく、助亜さんはある指示をわたしに下しました。
「月乃、お前は一般人に扮して南のアジトに潜入しろ。自分の目でターゲットたちの状況を見てこい」
「はい」
「ですが先輩…」
「猫目 お前は月乃のサポートに回ってくれ」
「……わかりました」
「オレと白露は北のアジトへ向かい、奴らの計画規模を詳しく掴んだ後に討伐する」
「無線や鳥の式が使えない距離ですが、どのように情報や決行日を伝えあうのでしょうか?」
問えば、助亜さんは猫目さんにアイコンタクトを送ります。彼はしぶしぶ両手で印を組み、わたしにある分身術を見せてくれました。
目の前で猫目さんの半身から生えてくるようにしてつくられたその分身は、他の忍には出来ない代物―――初代火影様のみが扱ったとされる、木遁忍術。忍の術に置いて“分身の術”は、単純な分身の術、より高度な影分身、性質変化を利用した水分身、雷分身と様々あるけれど……それでわかった。この見目新しい家屋も、猫目さんが忍術で作り出したものだったんだ。
呆気に取られてしまいました。木遁忍術なんて、昔シカクおじさまに聞いただけでとうになくなった技と思っていたから。
「猫目は木遁の使い手でね。木遁分身体を近くの森に幾つか待機させしとけば離れた仲間とも連絡交換ができる」
初代様だけが使える忍術を猫目さんが扱えるのには、何か深い事情があるのでしょう。でも、今ここの場で余計な詮索は、必要のない行為。
「これをキミに渡しておこう」
そう言って、猫目さんは小袋を渡してくれました。中には小さな木の実のようなものが詰まっています。
「発信器代わりだ。飲み込むと半日は効き目がある。欠かさず摂取してくれ。連絡を取りたいときにはほんの少しチャクラを練ってくれればいい。キミのいる場所に向かうことができる」
「了解しました」
助亜さんと白露さんが、北アジトのある亀ヶ山。
猫目さんとわたしが、南アジトのある千羽谷。
二手に分かれて敵の本拠地に潜入するこの任務は、日の出と共に決行されることになりました。
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