▼運命の任務

わたしが弟子入りを志願した日、綱手様はわたしに問いました。
忍者という生き物はひとり人を殺める度に―――――もしくは大切な人を失う度に、自己も一度死ぬというのです。
その人生を狂わせるような運命の任務に忍ならば必ず巡り会う。お前はそのとき死ぬのか それとも…と。

同じ話を 今はすっかりツーマンセルのパートナーに定着したカカシ先生にしたところ、

「ま…オレも忍になって長いからね」

そう静かに笑って、あとは口にしませんでした。
わたしもそれ以上の余計な詮索は、なし。

カカシ先生とツーマンセルを組んでもうすぐ一年。
その間ほんとうに、死に物狂いで任務に出向きましたが、“人生を狂わせるような運命の任務”というのは、あまりピンときません。
一瞬、下忍になりたての時分に相まみえた白と再不斬が脳裏を過りましたが、あれはナルトにとっての分岐点。
護衛 諜報 文書伝達 奪還 討伐 暗殺 一筋縄ではいかない経験が増えても、しかし、やはり綱手様の言うそれじゃない。まだ先のことかも知れないと踏んだ矢先に、わたしはとうとう巡り会ったのです。
あれは14の半ば、あと数ヶ月で15になろうかという頃でした。

忍者は足跡を残さない生き物。
然れば任務も報告書のみ記すに留めるもの。しかしこのことは――――わたしが会ったひとりの女の人の話は、どうしても明らかにしておかなくては。事の次第を伝えておくべきと誓ったのです。

彼女の名前は八重といいました。
この話を、これを読むあなたに、お伝えします。


*


「今回の任務は抜け忍の討伐だ」

関所で任務を渡され、遂行し、帰還する。
日常的に繰り返す単純なサイクル。抜け忍集団の討伐と言われても、この頃には抵抗もなくなってきていました。

「暗部のツーマンセルが調査に向かってる。状況を把握しながら対処しろ。さほどの脅威でないなら主要人物以外は“鬼灯城”送りでも構わん。お前たちは増援に加わり、討伐に協力しろ」

「了解」

「明けの明星には二人と合流するように。心してかかれよ」

妙なことに、危険な任務のわりに綱手様は内容を詳しく説明してはくれませんでした。任務続きで綱手様と話をする機会そのものが前より減っていたけれど、何か、いつもと違う予感。
そうして、正門を出る前の森の中。わたしとカカシ先生は手渡された事前報告と任務のあらましをざっと確認しました。

情報によれば、討伐対象の敵は複数名。
各国隠れ里の抜け忍が寄り集まり、北と南の二つの集落を形成しているとのこと。

「今任務に就いている暗部班で討伐に至らなかったのは、他の抜け忍に関する情報収集を優先したためでしょうか」

「ああ。綱手様は当初“暁”や大蛇丸の情報が手に入ると踏んでたみたいだが、これといった手がかりはなかったみたいね」

カカシ先生はいつも穏やかな声で、なんでもないように話します。常の冷静沈着さを目の当たりにして、先生が里でどれほど大切な忍なのか この一年で何度となく痛感しました。

「ねえ、先生。本来暗部がこなす任務にどうしてわたしが呼ばれたの?」

「……それに関しては、お前にひとつ言っておくことがあるな」

訊けば、先生は声の調子を変え、改まって言いました。

「この任務を無事遂行したら お前に暗部への昇格点がつく」

昇格点。自分が特に驚かなかったことがかえって驚愕でした。カカシ先生とツーマンセルを組み始め、任務の質も量も変わり、自分が試されてる自覚があったのかもしれません。

「じゃあ、火影様の要請次第で医療班からの暗部へ異動が決まるということ?」

「その通り」

暗殺戦術特殊部隊。カカシ先生と一緒に戦い、わたしは普段とはちがう先生の一面を度々目にしてきました。あれは暗部時代のはたけカカシの面影。
暗部は火影様直属の機関として存在そのものが秘密裏に動いている。同じ忍といえど正規部隊とは違う役目を担う忍たち。その一員にわたしはなるんだろうか。

「カカシ先生は、わたしが暗部に向いてると思う?」

先生の顔をちらりと見上げると、わたしのちいさな不安を感じ取ったのでしょう。先生は目を伏せてにこりと笑いました。

「いーや、ぜんぜん」

「わたしもそう思う。綱手様はどう考えてるんだろう…」

このときは笑い返す余裕がありました。わたしも、自分が暗部に向いているとは到底思えなくて。もっと正直に打ち明ければ、人の命に手をかけることには常に恐れがありました。仲間の命を救う医療忍者になりたいし、由楽さんの夢も引き継ぎたかった。

「詳しいことは話せないが 暗部にも派閥はある。火影直属の暗部に、信用できる忍を置きたい五代目の気持ちも 判らなくはないよ」

「そっか……」

「ま どうなるかはさておき、お前は任務に集中すればいい」

そのときのわたしは、この任務が自分にどんな影響を及ぼすのか、まだ知る由もありませんでした。

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