▼いってらっしゃい

1日1日があっという間に過ぎていって、ついにナルトが木ノ葉の里を発つ日が来た。
そんな日に任務もなく、手持ちぶさたなわたしは、サクラの様子を見にいくことにした。
医療班御用達の魚屋。
サクラは少し長くなった髪を後ろで結い上げて、目の前の魚に 両手を重ねた。
医療忍術基礎実習 魚の蘇生。持ち前の頭脳とチャクラコントロールで、サクラは弟子入りからたった3ヶ月で魚の蘇生ができるまでに成長した。
サクラが正門へ移動する気配はない。

「ナルト、今日発つって聞いたけど サクラは見送り行かなくていいの?」

「ええ。見送りする暇があるなら修行に費やさなくちゃ!」

あれきりサクラは人前で泣かなくなった。修行しなきゃね、と笑って言えるのはたぶん、自分の気持ちをナルトも分かってくれていると サクラが信じているから。
サクラを見習って修行しようかな とも考えたけど、なんだか気が進まなかった。
かと言って、気兼ねなくナルトの見送りに行けるわけでもなく。穏やかな昼間、雲ひとつない冬の空を見上げながらブラブラまちを歩いてみる。冬も半ばにさしかかっているこの頃は、うすい忍服だと体温調整しないと少し、寒い。空が高い。
日中こんなに暇なのも久しぶりだなあとぼんやりしていたら、背後から声をかけられた。

「なにボケッとしてんだよ、シズク」

それが誰か、なんて考えるまでもない。振り向けば、前よりも中忍ベストがさまになってきたシカマルが ポケットに両手を突っ込んで立っている。

「シカマルも非番?」

「ちげーよ、砂姉兄弟の見送り。ついでに今から任務。全く五代目も人使い荒いよな」

愚痴るシカマルに思わず笑いが零れる。

「そういや、さっきナルトとすれ違ったぜ」

不意にさっきまで頭の中でぐるぐる回っていた奴の名前が出て、思考がピタリと停止する。

「……へー、そう」

「見送りに行かねーのか?」

「…うん」

「んだよ辛気臭ェ顔して」

「辛気臭いって…。だって、ナルトに合わせる顔がないよ」

「……」

「わたし ナルトやサクラみたいにサスケを追いかけられない気がするんだ。……こんなの最低だと思うだろうけど」


里を抜けるということは即ち第一級の重罪、抜け忍となったサスケを綱手様が特別な対処をしていなければ今頃全国の手配書に記載されているところだった。
それでも、どんなにナルトとサクラが戦っても、これから里の人達がサスケに抱く感情はどんどん変化していく。
それを止められはしない。
もうサスケへは わたしたちの手なんて届かないんじゃないかと悲しいくらい冷静に見定めてしまう。
そんな自分に、後ろめたさを感じていた。

いつの間にか暗い顔をしてしまっていたらしく、シカマルは眉間にシワを寄せてため息をつくと、わたしの頭に手を伸ばして、すれ違いざまにわしゃわしゃと乱暴に髪を掻き回した。

「わぁっ!ちょっと、」

「行けよ」

「だから、」

「お前が悩むとか、らしくねェんだよ。さっさと走れっての。ぼさっとしてっと ナルト行っちまうぜ」

シカマルはにっと笑って、そのまま歩いていってしまった。

 
頷くかわりに、わたしは大門めがけて走り出した。

ごめんナルト サクラ。
わたしまだ決められない。
どうすればいいかもわからない。
でもね、わたしもサスケに会いたい。
さよならじゃないなら、寂しくない。
ふたりが夢の続きを捨てないでいてくれるなら、出来ることならあなたたちを支えたい。
みんなでもう一度同じ景色を見たい。
それは正直な気持ちだよ。

開かれた門の先にふたつの影を見つける。よかった、間に合った。
数ヶ月前、新しい火影様を迎えにいった仲間を出迎えた。今日、少し背が伸びたおなじシルエットをここから見送ることになるとは思っても見なかった。
ちょっと遠いけどまだ届くだろう。息を吸い込んで、有らん限りの大声を出した。


「ナルトーーー!!」

光へと続く道を歩いて行く、旅立つ君を見てるよ。きっとまた5人で笑える日がくると祈りながら。

「わたしも頑張る!!強くなって、ナルトやサクラの力になるから!!!」

次会うときには新しい自分でいると 約束するね。

「いってらっしゃい!!!」


ここからじゃ遠くてよく見えないけど、振り返ったナルトは絶対にまぶしい笑顔をしてると思う。

「オウ!いってくるってばよ!!」

突き上げられた拳が見えなくなるまで わたしは目一杯手を振った。

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