立海の終わり




『終わり』


俺達の夏は、終わった。

喜ぶべきなのだ。

幸村が復帰し、全国大会決勝の場に立つことが出来た。

悔やむべきは、全国制覇三連覇が出来なかったことだ。

精進が足らなかったのか。

いや、あの時の自分に出来ることはした。

風林火陰山雷も使った。出し惜しみする必要など、なかった。


幸村は泣いていない。

俺も涙は出ない。

行き場のない手は、腕を組んでごまかしている。

泣いているのは、丸井だ。

赤也は、ずっと俯いている。

蓮二は柳生と並び、表情を変えず、赤也の後ろに控えている。

丸井を慰めているのは、ジャッカルだ。

仁王は、しゃがんだままだ。


幸村がジャージを羽織った。

「俺は、謝れない。」

「ゆ、ゆきむらぐん…」

丸井がぐしゃぐしゃの顔を上げ、首を傾げた。

幸村、誰もお前の謝罪は望んでいない

俺は、そう思う。

「だってさ、皆と試合を、戦えたことが嬉しくて堪らないんだ、よ」

幸村の声が、震えた。

俺は今まで、幸村の涙など見たことがない。

無論、祖父の教えにより俺自身も泣いたことはない。

「復帰してさ、皆と一緒に練習して、此処に立てたんだ」

「ぶちょう…」

赤也が、泣いた。

「赤也を指導して、丸井のお菓子を仁王と一緒にくすねてさ。蓮二に嗜められて、柳生から飴玉をもらった。真田の声は、相変わらず、うるさいし」

「幸村」

思わず、口にした。

「そうやって、此処に皆に立たせてもらった」

ニッと笑った幸村は、この場の空気にそぐわないくらい楽しそうだ。

「だから、ありがとう」


あぁ、不覚にも目頭が熱いとは。

俺は、幸村のこの顔が見たかったのかもしれない。

皆と笑う様を見たかったのかもしれない。



悔しさは図り知れない。

ただ、バネにするだけの精神力を持ち合わせているのは十二分に理解している。

だから、今だけは皆のこの表情を目に焼き付けておこう。



丸井には、母に貰ったのど飴でもやろうか






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