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八番隊と十三番隊の手合わせの前日、金柑は意外な人物に意外な場所で会った。

「一角さん、どうされたんですか?」

金柑は、執務室を出て目の前に立つ人物を見上げた。

「あ?小椿に用があんだよ」

書類を持つでもない一角を金柑は、不思議に思った。

小椿を呼ぶように言われ、金柑は呼んだ。

何を話してるんだろ
金柑は気になった。
しかし、届けねばならない備品を手に十二番隊へと向かった。


阿近には久しぶりだな、と頭をぐりぐり撫でられた。

「局長に顔出して来いよ」
ふわりと漂う白煙。

金柑は、そうしますと局長私用研究室に向かった。

随分と元気になったじゃねぇか

阿近は、灰を落とさないように灰皿に置いた。

さて、もうひと仕事だな

久しぶりに顔を合わせた金柑。

思ったより元気だったことは、阿近を満足させた。


「ならば、斬魄刀の名を聞いたんダネ」

暗い部屋に灯る明かりは、毒々しい色ばかり。

何度か入ったことのある金柑でさえも、慣れない。

「また来たまえヨ」

うぉおうっ!

金柑は目の前の涅の近さに腰が引けた。

とは言え、どんな対象だか分かんないけど…
気にかけてくれてるんだよね、多分

帰り際に妙な紙を手渡された金柑は、内容に吹き出した。

「実験体って…」

それは、金柑を実験体として要請する個人的なものだった。

丁重にお断りしよう

流石の金柑でも、好奇心より自分の身が大事だった。



そして、手合わせ当日を迎えた。

当日発表でありながら、参加が義務づけられていた隊員たちは、既に道場に集まっていた。

また見学に来た隊員たちも多く、金柑もその一人だった。

「ルキア、応援してる」

「当たり前だ」
自信満々に笑うルキア。

ルキアは、金柑の晴れた表情に尋ねようと思っていたことを思い出した。

「その様子では、名を聞けたのか」

少々、眉間に皺が寄るのは致し方ないとルキアは腕組みをした。

「うん、三日前ね。恥ずかしくて言えなかった」

アハハと後退りをする金柑。

うわ、青筋が立ってる…

「ルキア!待って、言わなかったのは悪かったよ」

「ほう、分かっていながらにその態度か」

じりじりと迫るルキアに金柑は、背を向けた。

「金柑!待たぬかァァ!」

バタバタと駆け回る二人を浮竹は、微笑ましく眺めていた。

「仙太郎、頼んだよ」

側に控えていた仙太郎が、豪快に返事をした。

死神同士、会ったことのない者も多い。異隊が無いものや、遠征しかりだ。

金柑もルキアもそうだった。

今回、遠征から帰ってきた八番隊の大半を初めて見た者が占めていた。

全く分かんないなぁ…

「金柑、分からぬ者が多いな」

ルキアは、金柑の気持ちと同じだったのか辺りをキョロキョロと見回す。

「あとで、見てね」

「当たり前だ」

金柑は、斬魄刀を抱え直した。

ルキアの鋭い眼差しに今すぐ、飛び出したいと思った。


伊勢と虎徹の指揮下、手合わせは執り行われた。

がやついていた道場は静まり返り、程よい緊張感が張られた。

もう始まってるかな

「失礼します」

寒椿は、道場の敷居を跨ぎ中を見回した。

何処だ?

目を凝らし、邪魔にならない程度に体を動かす。

お、いたっ!
「金柑さん」

久しぶりに見た金柑は、随分と笑顔だった。

小さく手を振る姿に、寒椿の頬が緩んだ。

「出ないの?」

試合結果やめぼしい試合を調べながら、金柑に尋ねた。

檜佐木から話は聞いていたが、大事そうに抱える斬魄刀を見た。

「ん、出来るようになったよ。今日は出ないけどね」

ふ、と笑うと金柑はルキアの試合順番を示した。

「それなら、今度相手してよね」

勿論と笑う金柑と寒椿は、声を潜めた。

二人は、時折感嘆を漏らして試合を眺めていた。

やはり、遠征に行っているだけあり無駄のない動きばかりだった。

対する十三番隊の隊員も、理に適った動きを見せ、二人は目を離せずにいた。

まだまだだな…
「まだまだだよな」

金柑が言葉にする前に、寒椿がパラリと紙をめくった。

試合結果や注目株であろう隊員のことが、事細かに寒椿の少し右上がりの字で記録されている。

「あ、俺たちと同期のやつだよ」

「誰?」

「あいつ、組は俺と一緒だったんだよね。向坂辰之進」

さきさか、たつのしん?
全く知らないなぁ…

金柑は、何処にいるのかを尋ねた。

寒椿が示した先にいた人物に、金柑は目を疑った。




れんげ、まる…?


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