75



未だ、始解が出来ないでいる金柑。

隊首室で、気の向くままに執務を熟す浮竹。

彼の元に、季節外れな桃色の男が現れた。

「実はさ、お願いがあるんだ」

来て早々に花札を配りはじめた京楽。

浮竹は、ついつい手を出していた。

「暫く遠征に行っていた部隊の子たちが帰って来たんだよ」

「優秀だったらしいじゃないか」

まぁね、と笑い二つの山を作った。

「それで、腕試しをしたいんだってさ」

山から札を引き、京楽は唸った。

「別に構わないぞ」

宜しくね、と言うが真剣に見るのは、手札。

あ、揃ったぞ
浮竹は、今しがた引いた札にほくそ笑んだ。

これで、最中が貰える
浮竹は広げた札を突き出した。

「そんなぁ!もう一回!」

しぶといのは昔からだな

浮竹は、風が入る窓を閉めた。


八番隊と十三番隊が手合わせをするという話は、瞬く間に広がった。

有りそうでなかなか無い組み合わせに、各所では色めき立っていた。

九番隊では、檜佐木が特集に組もうと寒椿を呼び出していた。

「特集にさせてもらおう。あと、金柑の様子も見て来い」

檜佐木は、寒椿に資料を手渡した。

自分が行けば良いのに

口に出ていたらしく、檜佐木はニヤリと笑った。

顎を手に乗せたまま、言った。

「行くに決まってるだろ」

踏ん反り返った上司に、そうですねと呆れた。

なんだかんだ言っても、自分が行くんじゃないか

寒椿は久しぶりに会える金柑との邪魔をされないようにしようと誓った。

「あいつ、金柑のこと好きなのか」

去る背中に誰とも無しに檜佐木は呟いた。


六番隊では、竹井や柴岬がそわそわと落ち着かなかった。

金柑さん、出るのか
いや、分かんないが…
もしかしたら…

ボソボソと囁く二人の頭に柔らかい衝撃。

「副隊長」
竹井が振り返った。

阿散井は、出るか分からんとだけ言った。

知ってたら言うっつうの

阿散井もまた、落ち着かなかったのだ。

が、光明はあった。

「自分の分が終わったら、行って良いぜ」

朽木隊長からだ、と付け加えた。

すると二人は目を見張り、握っていた筆を更に握り締めた。

「「やったー!!」」

普段は大人しい柴岬が、竹井と共に叫んだ。

慕われてんじゃねぇか
妬けるぜ

阿散井は、今はいない金柑を思った。

そして、一喝した。

「はしゃぐんじゃねぇっ」

二人には、聞こえていなかった。


手合わせの話は勿論、両隊には事細かに知らされた。

そして参加者は当日に発表することとなり、隊員達は浮足立っていた。

ルキアも例外ではなかった。

「金柑、どうだ?」
ルキアは様々な意味を込めて尋ねた。

聞いても良かったのだろうか

ルキアは変わらない上背の金柑を見つめた。#

#NAME1##は、まだまだかなと笑った。

一瞬にしてルキアの顔が歪んだが、金柑はニィッと笑った。

「実力はあるよ」

ルキアは、そうかと応えた。

ルキアはそれ以上追及しなかった。

躱されることは分かっていたし、それ以上に金柑の表情が曇ることがなかったからだ。

感情が目に見えて分かる金柑なのだ…
あながち、嘘ではないのだろう

ルキアは、そうでなかった場合は何を見舞ってやろうかと考えた。

金柑はここ暫くの間、斬魄刀と対話をしていた。

ところが、名前はまだ知ることが出来ずにいた。



今も金柑は、対話をしていた。

対話というよりは、斬魄刀が一方的に話しているのを聞いているだけなのだが。

金柑が、斬魄刀の言葉を返せずにいたのは、罪悪感があったからだ。

<聞いているか?>

金柑は、斬魄刀の声に首を縦に振った。

すると、自室の明かりが全て消えた。

冬の今、明かりが無いだけで寒さを感じた。

<金柑、君さいい加減にしてくれるだろうか。別に、気付いてくれなかったことなぞ気にしていない。寧ろ、話しが出来ないことの方が気に障る>

普段はかかない胡座に横たえた斬魄刀。

フツフツと熱を感じ、カタカタと鍔が鳴った。

「ご、めんなさい」
また迷惑かけてるよ

金柑は、溜め息を吐いた。

斬魄刀は、朱と橙の狭間の色を放ち、金柑の膝を離れた。

<生きる覚悟はあるのだろ>

金柑は、吉良とのやり取りを思い出した。

皆と居たいから…
うん
「あります」

金柑は、ギュッと拳を握った。

<それで充分だ>

斬魄刀は、ゆらゆらと揺れスラリと刀身をあらわにした。

<灯宵だ。言っておくが、俺は厳しいぞ>

さっきとは打って変わった低い声に金柑は、肩を竦めた。

「これから、宜しく」

<あぁ、宜しくな>

居場所と手段、だ

金柑は、一人笑った。

ほこほこと温かい灯宵を抱き抱えて


>>


//
熾きる目次
コンテンツトップ
サイトトップ
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -