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「まだ、邪魔をするか」
丹京は、だが遅いと言い捨てた。
ちくちくと痛む痣は温もりをもたらした。
「金柑、すまなかった」
蓮華丸の声を少し聞いていないだけで、長いこと聞いていないような気がした。
身体に感じる蓮華丸の霊圧は心地好く、金柑は大丈夫、と答えた。
謝られるのは少し違う気がする…
金柑の気持ちを読み取ったのか、蓮華丸は笑った。
「ありがとう、金柑」
ん、と頷く。
「これが最期、もっと人を頼りなさい」
蓮華丸の言葉に金柑の身体がふるりと震えた。
頼りすぎているくらいだよ
金柑の脳裏に浮かぶ六番隊の面々やルキアや吉良に他隊の上司、そして斑目一角。
もう気持ちを寄せてなんかいられない
良かった
まだ、深入りしてないから
大丈夫
ジクジクと痛む傷に温もりが染み渡る。
「さようならだよ」
姿のない蓮華丸が笑ったように、金柑には感じられた。
「そ、うね…ありがとうバイバイ」
−バイバイ−
これが最期、そう蓮華丸に告げられ、手渡されたそれは使い込まれた刀。
色褪せ、巻き直した柄を何とか握る。
どうしようもないものね…
「いくら邪魔をさせない為とは言え、何度も空間を造ることになるとは」
無駄なことをしたな、と丹京は自嘲気味に言った。
刀を向ける金柑。
定まらない身体を持ちこたえさせ、丹京を見る。
本当に勝てるのかな…
金柑は足を引いた。
瞬間、丹京は飛び出し、金柑の肩口に斬りつけた。
ジクリ、と痛むのは背中の傷。
襦袢は身体に纏わり付き、金柑が刀を振ると滴が散る。
メキリと節々が音を立てた。
早く早く早く
気持ちばかりが焦る金柑は、縺れそうになる足を力強く踏み込んだ。
逆袈裟に払うと、丹京は簡単にいなす。
キチキチと刃が擦れ、どちらともなく鍔ぜり合いに持ち込む。
丹京はグッと力を込め、金柑を突き放した。
支えを失った金柑は態勢を整え、構えた。
「縛道の四、這縄」
ギュルンと伸ばされたそれは、簡単に打ち払われた。
金柑は息を吐いた。
もう少しもう少し踏ん張れ
踏ん張らないと…
丹京は自身の身体の制御が、効かなくなっていることに気付いた。
ちっ…今まで私は何のためにやってきたのだろうな
こんな小娘にっ
丹京は、金柑が息を吐いた瞬間を狙った。
ザクリと肩に走った激痛と既に分からぬ鮮血。
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