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甘い香が漂う。

「でも、人に頼られたいでしょう」

そう、私はそうだから
頼られたい、必要とされたいから信じるんだ

丹京は、つと顎から指を外した。それでも距離を取らない。

「だから、東家に提案した。受け入れてもらえなかったから、渦土家を殺した」

金柑にとって、両親が殺されたと認めることは複雑だった。

仕方ない、で片付けられない…
金柑は呟いた。

頭の痛みが増し、唇は更に乾いた。

丹京はそんな金柑の姿に嫌悪を感じた。

綺麗事ばかりだ
忌ま忌ましい
馬鹿馬鹿しい

「別に構わない。蓮華丸が私を選んだ理由が偶然でも」

金柑は、自分の泥に塗れた足に視線を移した。

「それでも私は…私にあなたを殺す理由を与えてくれた、頼ってくれたことが嬉しいの」

握りしめた手が青白く、金柑の身体がふらつきだした。

「自己満足だな」

丹京の声は冷たく、投げられた。

金柑はその冷たさに怯んだ。そして、霞む視界を払う。

「いい、分かってる」

身体の芯から冷えていくような気がした金柑は、きゅうと両手を合わせた。

合わせた手から乾いた血がホロリと剥がれて、藍色に消えた。

「叛鬼術、浮施」

丹京は印を組んだ。
周囲の藍色はドロリと解け出した。

金柑は足元の冷気に気付いた。

「叛鬼術は幾つか在る。あの女が私に施したモノとはまた別ものだ」

丹京の身体から光が溢れ、ユラリと髪が流れた。

冷気が漂う足元に術式が描かれた。

私、死んじゃうのかな…
座り込みたいのに座ることが出来ず、丹京にされるがままの金柑。

「皆は助かる?」
「術は解いた」

金柑の問いかけに丹京は優しく答えた。

蓮華丸はあなたを殺したがった
蓮華丸のお陰で…、せいで…

藍色が全て消えると、急に金柑の視界が銀色に染まった。

途端に、身体中に広がる痛みと肌を伝う滴。

ギリギリと身体の芯を締め付けられるような痛みが、金柑を襲った。
声にならない叫びは、荒い息遣いに現れた。

ヒュー、ヒュウと喉が鳴る。意識が飛びそうになるのを何とか堪える。

最中、金柑の痣が淡く桃色に光り、痛みが和らいだ。



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