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丹京の言葉にルキアは耳を疑った。
何を言ったのだ
此奴は…
恋次は意味が分からず、白哉を見た。
「丹京の『器』としての肉体の許容範囲を超えれば、治癒力は今までの反動を丹京自身に反すだろう。それをさせない為に、海野の身体に全てを移し替えるということだ」
その続きを引き取ったのは涅だった。
「できるのかネ」
忌ま忌ましく笑う涅に丹京は鼻で笑った。
「当然だ」
朽木は丹京を睨み付けた。ピリピリと突き刺すような霊圧が広がった。
丹京は、くつりと笑った。
日番谷は何だと、と噛み付いた。
「概ね見当はついていたが、よく分かった。それならばこれまでだ」
丹京は、金柑に手を翳した。
包むように光は溢れ、一時的に止まっていた金柑の身体から血が滲み出した。
コポリと石畳が染まった。
「ァ、アアァ!!」
悲鳴にすらならない金柑の声が、ルキアの耳を劈いた。
「金柑くん」
吉良は冷静に金柑の身体に触れた。
「移し替えたのかネ」
マユリは吉良の手をどかせて、金柑の顔を覗き込む。
虚ろな目がマユリを見る。
「いや、まだだ」
「フム…単純且つ明快なのダヨ」
少々、落胆したがネ
当たり前のようにマユリは溜め息を吐いた。
石畳に広がった血は、砂と混じり黒ずむ。
ルキアは、阿散井に引き止められた手を解いた。
更木は眼下のやり取りなどに目もくれず、力を出し切ることなく虚を蹴散らした。
「ちっ、手応えが無ェなぁ!」
つまんねぇ、とぼやく更木の背に乗ったままのやちるは、足をばたつかせた。
「剣ちゃん、つまらなさそうだよ」
「当たり前だろうが」
くすくす笑うやちるをそのままに、二人は屋根を飛び越えた。
カチャリと刀を構えた上司に阿散井は叫んだ。
ルキアもまた、兄を見据えた。
丹京は薄ら笑いを浮べた。
「私を斬れば、あの娘も斬られるというのに」
その言葉は、金柑にも届いていた。
ドクドクと波打つ心臓や焼けるような痛みに蝕まれる。
「私とて、こんな面倒なことはしたくはなかったのだ」
丹京は、金柑に視線を投げた。
「金柑、聞いておくれ」
ずぶずぶと溢れる水が、金柑を水球の中へと取り込もうと印を組んだ。
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