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ドサリと腕に抱き留めた一角は、金柑をぎゅっと抱きしめた。
手に感じる血の冷たさに苛立ちを覚えた。
「金柑」
ぼんやりとした意識で金柑は目を開けた。
目に映ったのは、曇天と想い人。
目頭が熱くなった。
悔しさと不甲斐ない自分に。
金柑は、力の入らない拳を緩く握り締めた。
「馬鹿なことダヨ」
一際、異彩を放つ男が現れた。
「涅隊長!!」
阿散井が叫び、一角は丹京を睨みつけた。
そんなことは意に介さず、涅は丹京を見上げ、もう一度口を開いた。
「馬鹿なことダヨ」
丹京は、気にするでもなく、小さく笑った。
「大方の術には決められた手順、見返りがあるのは当然。赤子でも解ることダヨ」
丹京が涅に気を取られている隙に、吉良は金柑の元に向かい、一角から金柑を受け取った。
キュウン、と耳に残響を残した一角は立ち上がり、上空で立ち回る仲間の元へ駆けた。
「卯ノ花隊長を呼ぶわ」
松本は、呼び寄せた地獄蝶に吹き込んだ。
ドクリと溢れる鮮血は、石畳を鈍く染める。
金柑は朧げな意識のまま、処置をする吉良の揺れる前髪を見ていた。
身体に残る一角の名残が、金柑を苛んだ。
誰もが立ち尽くす中、涅は喜々と足を運ぶ。
金柑の前に立つと、誰が問うた訳でもないというのに口を開いた。
「術というモノは、ある一定の条件を持っているのダヨ」
マユリは、淡々と当たり前のように言葉を紡ぎ出した。
「それはどんなに低俗なモノから高尚なモノに至るまで、等しい。それならば、今の状況で私が何を言いたいか分かるカネ」
ギョロリと首を回す。
「涅隊長?」
ルキアは臆することなく、前に進み出た。
丹京はただ、マユリを見下ろしていた。
「私が調べた時、斬魄刀の霊圧は異常値。恐らく、その男が目的であった斬魄刀蓮華丸の居場所を探る為に使った石のせい。それは大した問題ではないのだがネ」
フンと鼻を鳴らした。
不穏な空気が辺りを包み、ルキアの胸中は焦りでいっぱいであった。
マユリはそんな周囲の様子を知ってか知らずか、話を進めるペースを変えない。
「キミは聞かずにはいられない筈ダヨ。蓮華丸は知っていた、自分の霊圧を使って探しているキミ
のことを」
ニタリと笑ったマユリに丹京は表情を変えない。
「だからなんだ」
丹京は、身体に染み付いた華の香が疎ましく感じた。
「それに対して何もしない訳がない。ともすれば、キミが蓮華丸の術を使っているならばそれには」
「許容量がある筈だ」
朽木が目を伏せたまま引き取った。
マユリは苦々しく睨み付け、続けた。
「そう、それは彼女自身も体験をしているから分かると思うのダガネ」
「なに」
日番谷は異形の同僚を促した。
「そんなものは知っている。許容量を超えた器は割れる」
丹京は無表情に答え、小さく息を吐いた。
涅はフンと鼻を鳴らし、ギョロリと瞳を動かした。
「解っているのは当たり前ダヨ。それに、克服する手段もネ」
気怠そうに続ける涅。
「金柑に移すよ」
ニタリと笑った丹京の銀髪が靡き、くすんだ空に光を射した。
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