62
二人が別れる前、蓮華丸は金柑に話をした。
暗闇の中、聞こえる同僚の声を聞かぬよう耳を塞ぐ金柑。蓮華丸はその手をそっと外した。
「金柑、私が金柑の元へ行ったのは霊圧が似ていたからだ。渦土家のもの。金柑の母親代わりが渦土のものと知ったのはつい最近だったが…」
金柑は顔を背けた。
母親代わりの母さんの力の残り香でしか、私には意味が無かったんだ
金柑は蓮華丸に縋った、顔は背けたままに。
金柑の肩を抱き、蓮華丸は囁いた。私は金柑が大事で堪らないのだよ、と。
匂い、温かさ、手触りの全てが金柑の涙腺を緩ませた。
蓮華丸は未だ湿ったままの小袖に触れ、ありがとうと暗闇に落とした。
印を組む指の白さは、蓮華丸自身には分からなかった。
佇む丹京。
見上げる死神は、斬魄刀を握り続けていた。
「丹京、金柑を解放しろっ」
虚を鬼灯丸でなぎ倒し、蹴飛ばした一角は叫んだ。
丹京は馬鹿らしいと嘲った。
「そんなことすると思う…っぐぅ!!」
途端に苦しみ始めた丹京の様子に、阿散井がルキアに近寄った。
「何だ」
ルキアへの返答は、丹京の叫び声でしかなかった。
「ぁぁあぁぁ!!」
キーンと耳を劈くような音ともに、丹京の内から毒々しい紅い光が現れ、ぼんやりと人影が倒れ込むように姿を見せた。
「金柑」
ルキアは阿散井の腕を掴んだ。
「何故だ、はぁ、はっ…蓮か」
初めて顔を歪ませた丹京に金柑は、そうとだけ答えた。
「良かろう、とどめだ」
「金柑っ!」
「違う、金柑じゃないっ」
「何!?」
丹京が攻撃の標的に選んだのは、金柑ではなかった。
丹京に向かいかけた阿散井を止めたルキア、振り返った阿散井が見たものは泥兵が倒れ込む姿だった。
ドシャドシャと水音を立て、石畳に染みを作り上げた。
「何故だ」
ルキアは、まさかと金柑を見上げた。
はぁ…はぁ…痛い
もう嫌だ…
でも
「しぶといな」
丹京は、金柑を突き飛ばした。
金柑は、何とか立ち上がった。
眼下では、ルキアが金柑を見つめている。
さっきとは比べ物にならないくらいに血を吸った死魄装が、金柑にのし掛かった。
傷が…全然治らない…
死ぬのかな
でも…
金柑は吐きそうになるのを堪え、丹京を見据えた。
異様に一角の霊圧が荒くなり、更木の霊圧と混ざる。
金柑は着ていた死魄装を脱ぎ、腰帯からどうにか抜いた。
そして、絡み付く死魄装を捨てた。
急速に冷える身体を包むのは、真っ赤な襦袢のみ。
見せかけでしかない、蓮華丸の存在しない斬魄刀を構えた。
金柑は、ぐっしょりと袴が纏わりつく左足を蹴った。
が、斬りかかることは叶わなかった。
「あぁぁぁっ!」
「金柑ーっ!」
姿を消した丹京がとどめとばかりに放った術が、泥兵から金柑に返った。
一角は自身を追う虚を蹴散らし、叫んだ。
そして走った。
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