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姿を消した金柑、印を組む丹京に阿散井は、唇を噛み締めた。

「金柑は取り込まれたのか…」

ルキアの問いには、誰も答えられなかった。

丹京の背後に現われた黒い華。

「何だ、あれは」

檜佐木たちは阿散井の元に下りた。

「東家の術よ」
「東家…?」

丹京は不適に笑った。

曇天は重く垂れ込み、鉛色ではなく、灰暗い色に移り変わっていた。

「眠れ、墨蓮」
―ズアァ―

丹京の背後の黒い華は、蓮の華を象り始めた。

「お前たちの闇はなんだ」

丹京の言葉は、既に届かなかった。


此処は何処だろう

知っている
そう此処は
あの日の牢だ
「市丸、隊長…」

懐かしく淡く光を放つ銀髪に、数える程にしか見たことのない双眸。

「イヅル、おいで」
放られた言葉、開かれた牢が、吉良の視界に広がった。

だけれど、僕は『今の僕』だ
『あの時の僕』ではない
そう…

握り締めた侘助が、小さく温かく震えた。


「藍染隊長は騙されているの…」

青白い顔で、手を声を震わせた少女は微笑んだ。

「雛森!!」

倒れる雛森を抱き留めたのは。

藍染
藍染
藍染藍染!!!!

日番谷は瞳を閉じた。


「さいならや、乱菊」
「ギン!」

揺れた銀髪は、乱菊にあの日を思い出させた。

雪の日の旅立ちを。

あんたはいつもそう
だけどね、だからね
私は変わったわ
ギン



「朽木隊長、日番谷隊長がっ」

阿散井は、ルキアの様子を窺った。
「心の闇、か」

ルキアは斬魄刀を抜いた。

阿散井はフ、とこの場に似合わぬ笑いを零した。

上空の十一番隊の様子、ルキアの意志が、ひしひしと疲労を溜めた身体を労ったからだ。

「ご名答」

笑った丹京は、朽木の落ち着いている様子が気に食わなかった。

私は無力だ
蓮華丸がいなかったら、席官にはなれなかったんだ
私が誇るものは一体何…

丹京の中、金柑は蹲っていた。

優しくなけりゃ、今の状態になんてなってねぇ

そんなこと知らない
優しくなんかない
力が欲しい
力が欲しい
誰にも迷惑をかけないくらいの強さが


金柑!!


何でアノヒトが…


「一角、無駄だよ。アイツを倒したら、金柑だって死ぬかもしれない」

「そんなこと言ってる場合かよ!」

身体中が軋む様に震えた。

アイツっ…

「少なくとも、僕や阿散井たちは金柑を助けたいんだ」

弓親はそっと一角の背に触れた。

「分かってる」
「だからこそ、だ」
「くそっ」

弓親の言いたいことは分かってるさ

一角の考えてることは分かってるよ

「金柑!」
ルキアは、姿の見えない友人を求めた。

「ルキア、大丈夫か?」
「私は大丈夫だ」

すぐそばにいる朽木の香に気を落ち着けた。

「しゃらくせぇ」

「更木隊長!」

広がった闇を断ち切ったのは更木だった。

黒い元凶はブツリ、と散った。
―ズアァァッ―

同時に更木は少しだけ力を解放し、斬魄刀を構えた。
肩のやちるははしゃいでいた。

―ダンッ―

立つ筈のない土煙に何かを感じた一角は、更木の頼もしさに大きく深呼吸をした。

次から次へと昇華されていく虚の叫び声が、ルキアにも届いた。

凛と響く鈴の音が、この場にはそぐわなかった。

「散れ、千本桜」
「兄様っ」

前触れもなく刀を振るう兄に、ルキアは振り向いた。

―サアアァァッ―
―ザァッ―
桜の刃が空を舞った。

向かうは丹京である。


鈴…ルキアの声

桜だ

金柑
金柑!

ル、キア…

「ふむ、目覚めたか」

身体の中の違和感に丹京は、眉を顰めた。

「金柑を返せ!」

「愚かなことよ、眼前の味方には目もくれぬか」

日番谷と対峙した時とは、ニュアンスが違っていた。

倒れ込んでいる何人かや、立ち上がり虚を相手にする者をちらりと見やった朽木は、丹京だけを睨んだ。

「兄には関係のないことだ。今は倒すのみ」

白い羽織りに映えた桜がルキアを安心させた。



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