59



立ち尽くす隊長格の元に、冷たい霊圧を纏った日番谷が降り立った。

「何をやっている!阿散井っ」

阿散井が俯く姿に日番谷は声を張り上げた。

「駄目です、日番谷隊長。金柑がっ」

阿散井が蛇尾丸を下げ、現状を掻い摘まんだ。

何だと…
厄介だな

日番谷は手を出せぬことに苛立った。

「良かろう、助けてやろう金柑」

日番谷が今にも飛び掛からんばかりに斬魄刀を構えると、丹京は一計を立てた。

「金柑っ!」

淡い光を放ち金柑を手の平から取り出せば、銀の塊は人型をとった。

吉良は偽者かと霊圧を探ったが、長い付き合いであれば金柑であるという確証しか得られなかった。

「血だらけじゃねぇか」

日番谷は、くすんだ顔色の金柑に目を見張った。

「今は辛うじて蓮華丸、斬魄刀の力で傷は抑えられている筈です」

弓親が日番谷に答えれば、隣りで一角が舌打ちをした。

曇天のせいか石畳に反るはずの影はなく、血の跡だけが砂に混じっている。

嫌な緊張が走っている中、朽木が後ろを振り返り、阿散井がルキア、と叫んだ。

走ってきた筈のルキアは、息を切らすでもなく兄様、と見上げた。

朽木はスルリと視線を外し、斬魄刀の鯉口に手を掛けた。

「金柑、好きなようにして構わない」
「はい」

金柑、何をしているのだ
血だらけではないか!

ルキアの気持ちを代弁するかのように、阿散井が咆えた。

「金柑!何、考えてんだ!」

誰もが地面を蹴ること無く、徒に砂埃で足袋を汚した。

金柑の瞳は虚ろで、丹京の意思に従うかのように手を掲げた。

丹京に取込まれた筈の蓮華丸が斬魄刀として姿を現し、カチャリと鳴った。

「面倒だ。一、波影」

それは阿散井たちが知る金柑の威力より幾らか強くなっていた。

刀を平に構え、切っ先を自分達に向けた金柑の表情は、微動だにせず青白い。

波音とともに三本の水の刃が更に襲った。

「っつ…!金柑くんっ」

辛うじて躱した吉良は、斬魄刀を否応なしに抜いた。

「黙れ」

そう言い放った金柑の顔には、治りきらない傷が増えていった。

「金柑ちゃん!」

音もなく静かに駆け付けたのは、雛森だった。

金柑の姿、丹京の笑みに足が竦む雛森だったが、ギュッと心を落ち着けた。

「雛森桃、朽木ルキア」

金柑は全てが操られている訳ではなかった。

しかし、丹京の意に逆らうことは出来ず、身体を委ねざるを得なかった。

「金柑、二人とも下がれ」

阿散井が蛇尾丸を構え直し、隣りにいたルキアを半身で隠す。

金柑は無表情で横一に刃を向けて、三、颪と言い放った。

前に出ていた阿散井やルキアたちを、蓮華草が包み込んだ。

霊圧に比例するそれは大きく、金柑は包まれるや否や、すぐさま外から真一文字に斬り放った。

囲われている中、多数の花弁が山颪のように散り切り裂かれた。

朽木の千本桜には及ばずとも威力は大きく、雛森の手は震えていた。

「ルキアっ!」

ザァッと花弁が散る音に、阿散井の声が一際響いた。

「雛森!」

叫んだのは氷輪丸を解放した日番谷で、雛森は石畳に叩き付けられていた。

金柑を睨み付ける日番谷の表情は複雑であった。
アイツが悪い訳じゃねぇ…だがっ!

大丈夫、と微笑む雛森を何とか立たせると、日番谷の横を朽木がスルリと通った。

「ウミノ、我を失ったか」

ヒュッと空を斬る斬魄刀の音に金柑は眉をしかめた。

「隊長…」
金柑は蓮華丸を下ろした。
私は
私は…

それでも丹京の術は、金柑に刀を構えさせた。

丹京は楽しそうに高みの見物を決め込んでいた。

「朽木、下がれ」

愚かなことよ
眼前の敵にしか意識がゆかぬとはな

冷気を纏った日番谷に丹京は、もはや憐れみしか浮かべられなかった。

大将を絶たねば意味は無いというのに
愚かな

やはり所詮は子どもだな

「日番谷隊長!!」

蛇尾丸で躱したとは言え血に塗れた阿散井を支え、ルキアは恐れた。

このまま…
このままでは金柑が
日番谷が地を蹴り踏み込んだ瞬間、目の前に飛ばされて来た虚の残骸が散った。

現れたのは、唯一人虚を相手にしていた更木だ。

舌打ちをした更木の元にやちるが飛び乗る。

更木、邪魔をするなと凄む日番谷だったが、更木に引き寄せられた虚が邪魔をする。

一方の更木は斬魄刀を片手に笑っていた。

「十一番隊は更木隊長と共に虚に当たれ」

朽木が指示を出した。

弓親が走り出すと、一角は地を蹴り上空の虚に回った。

仕方あるまい
死神が悪いのだからな…

「解地、造」

印を組むとグチャリと音を立て、石畳の隙間から泥筋が現れ人型をとった。

構えた斬魄刀を金柑は、日番谷に向けた。
「一、波影」

ちっ!追尾型は厄介だ
だが、水なら俺の敵じゃねぇ

日番谷は振り切る寸前、波影に対峙し斬魄刀を構えた。

「竜閃架」

ガシャン、と凍り付いた氷の刃が形を保てず崩れていく。

一方で、泥兵が傷付けられたせいか、金柑の足元はおぼつかない。

それでも自分を捕らえようとする日番谷に、反射的に右手を構えた。

「破道の三十一、赤火砲」

爆音に吉良は泥兵を片付けて振り返り、爆風から姿を現した金柑を見つめた。

「このままじゃ…檜佐木さん」
侘助を納め、吉良は辺りを見回した。

上空では更木と一角が虚を蹴散らし、そばでは阿散井がルキアと雛森を背にしていた。

仕方ねぇ、荒技だが…

檜佐木は吉良と共に、日番谷と金柑の元へ向かった。

ひゅうひゅうと耳を掠める風の音に檜佐木は、ギリッと奥歯を噛み締めた。

相対した金柑に檜佐木は斬魄刀を構えた。


「刈れ、風死」

吉良は檜佐木の周りの霊圧や、風の動きが変わったことに気付いた。

久し振り、だな
檜佐木さんの解放を見るのは

「檜佐木っ」

日番谷は邪魔をするな、と凄むも檜佐木は振り返ることなく風死を構える。

―ヒュンヒュン、ヒュン―

鎖が空を切れば、金柑の足は退く。

間合いを詰めた檜佐木が、瞬時に片方の鎌の遠心力を利用して蓮華丸を捕らえた。

ギャリン、と鈍い音が金柑の手元に伝わった。

一瞬引き寄せると、檜佐木が鎖を解き吉良が侘助を解放した。

「面を上げろ、侘助」

二度刀を合わせ、金柑の動きを制限した。

「金柑、落ち着け」
だらりと垂らした右腕を掴もうと、檜佐木は手を伸ばした。

「余計な手出しを」
先に掴んだのは丹京だった。

吉良は檜佐木と並び、間合いを計る。

「縛道の六十二、百歩欄干」

檜佐木の得意とする技を吉良は放った。

躱した丹京は金柑を下ろした。

「そこまでするならば…解地」

新たに現われた紛い物を目隠しに、丹京は金柑を再度捕らえた。

「あぁぁぁっ!!」

叫びは消えた。



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