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受け止められた金柑の視界には蓮と曇天。

「ねぇ…」
口が渇いてる

掠れた声に金柑は思った。

「喋るな」
「蓮華丸は斬魄刀じゃないの」

蓮の制止は聞かず、蓮の小袖を掴んだ。

「嘘でしょ、だってもう四十余年…」

握ったそれには赤黒い染みが出来た。

その染みは酷く蓮の小袖には似合わないものだった。

この場で言うべきではないと蓮は思ったが、今だから言えるのだろうかと言葉を紡いだ。

「済まない、だが…金柑の力になれたことは私の誇りだ。これからも一緒に戦おう」

小袖を握る金柑の右手に重ねた蓮の手は白い。

「私は斬魄刀を持ってない…」

左手で顔を覆う金柑を蓮は、強く抱き抱えた。

「金柑っ」

「蓮華丸、蓮か。ありがとう今まで」

金柑の言葉は冷たくも、悲しい程に温かい涙が蓮の小袖に染みた。

蓮は金柑の頬を拭った。

すると、金柑が蓮の手を取り強く握り締めた。

乾いていない血が蓮の手にこびりついた。

「だから、お願い。貴方が丹京を倒す理由を私に頂戴」

私が終わらせないといけないから…

私に丹京を心底恨む理由は無いから
だから…

金柑の気持ちを読み取った蓮は、金柑の目元に付着した血を小袖で拭って頷いた。

気付けば蓮も涙を流していたが、二人は微笑みあった。

「余分な話はしなくて良いのだがね」

丹京の言葉に二人は体を強張らせた。

「さて、始めよう」

凛と響いた声は、金柑の声にかき消された。

「蓮っ!蓮華丸」

丹京は容易く、蓮の動きを封じ蓮を身体に取り込んだ。

「私の内に取り込んだ。どうする?力の解放など出来ぬよ」

丹京の身体から感じる霊圧に蓮の霊圧が混じり、混沌とした濃度を見せた。

「そんな」

クラクラする頭、倒れ込みたがる足をどうにか働かせた金柑に丹京は当たり前だ、と笑った。

「赤児のような考えは捨てるべきだったな」
「丹京っ!」

掠れながらに叫ぶ金柑から丹京は視線を外し、眼下の死神を見据えた。

「愚かよ」

丹京はくるりと指を回した。

「っあぁ」

丹京の仕草に囚われるように崩れ落ち、更に銀の糸が絡み付き始めた。

「どうしたんだ…金柑っ!!」

阿散井は先程弾かれた手に滲む血を拭った。

銀の糸に包まれた金柑はみるみるうちに小さくなり、丹京はそれを手の平から取り込んだ。

「彼女と蓮は私の内にいる。どういう意味か分かるだろう」

えも言われぬ霊圧の混じり方に、弓親は吐き気を覚えた。

「迂闊に手を出せぬと言いたいのか」
朽木の羽織りが揺れた。

「ご名答だな」
風が丹京の髪を靡かせた。

「ちきしょう」

一角は鬼灯丸をきつくきつく握り締めた。

何でこんなに悔しいんだ…

鬼灯丸が弾いた石畳の破片が転がった。


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