57
先程まで鳴り響いていた地響きや爆発音は途絶え、いやに静けさが瀞霊廷を支配した。
京楽は浮竹のもと、十三番隊に身を置いていた。
「浮竹、様子がおかしいようだね」
笠を上げ、京楽が言った。
「あぁ、日番谷隊長に向かってもらおうか」
浮竹は口元に手を当て、空を見上げた。
曇天に、浮竹はそっと息を吐いた。
「そうだね、七緒ちゃん」
京楽は控えている七緒を呼び、事の次第を説明した。
七緒が去ると、浮竹は京楽、と呼んだ。
「こっちからも行ってもらう」
「そうだね」
日番谷くんだけに任せる訳にはいかないね、と微笑んだ旧友に浮竹は頷く。
「清音、仙太郎」
「「はいっ」」
すぐさま二人は現れ、浮竹の指示を仰いだ。
暫くすると、上空を銀髪の少年と彼の副官が駆けた。
金柑が黙り込み、阿散井に向かって鬼道を放つ中、丹京は新たに泥兵を生む。
―ドチャ―
撥ねる泥を躱した一角は、鬼灯丸を新たに向かって来る泥兵の肩口に振り下ろした。
「斬っても斬ってもいなくならねぇ!」
赤黒くこびりついた血で、手や頬の傷は引きつっていた。
「やっぱりまずい」
弓親は向かってくる泥兵に刀を向けることなく蹴り跳ばし、背後の一角に呼び掛けた。
「一角、様子がおかしいって言ってるだろう」
「あっ!?」
振り返った弓親が指差す先の金柑の顔は白く、死魄装は肩からずり下がっていた。
刀を振り回すのを各々止めたことを確認した丹京は、スルリと白い指で銀の円を描いた。
「程よかろう、蓮」
一角はいつでも抜けるよう柄に力を込めた。
「丹京!貴様っ」
ズルリ、と現われたのは水を滴らせた黒髪の若い男だった。
ギリギリと拳を握る蓮華丸否、蓮に丹京は言った。
「お前の仮初の主、いや宿主か。血だらけだ」
嘲笑う丹京に、蓮は金柑を見た。
そこには青白い顔で死魄装がずり下がった金柑がいた。
「金柑!まさか泥兵の治癒を回したのかっ」
自分に手を伸ばした蓮に、金柑はそっと手を受け止めた。
「痛くないから、それより」
滴る滴を拭う金柑の手は酷く冷たく、傷の回復が遅れていた。
「何を言っている!辛うじて立ってる状態だ!容量を超えれば確実に身体に返るんだ」
蓮の言葉は響き渡った。
「そんなっ!朽木隊長」
「吉良、落ち着け」
朽木に縋るように吉良が刀を握ったが、檜佐木にやんわりと抑えられた。
確信を得た弓親は苦々しく斬魄刀を握り締め、隣りの一角を見た。
「一角、今までのこいつらに対する攻撃は全部金柑の傷になってるんだ」
もっと早く気付けば良かった…
「何だとっ!隊長は!」
気付いたように更木を探す一角に、弓親は冷静な声音で表情は苦々しいまま告げた。
「隊長は虚相手だから心配はないよ、恐らくね」
「くそっ」
僕がどうこう言ったって仕方がない
朽木隊長や阿散井の方が辛い筈だ
弓親は靡く髪を押さえ、一角の変色した血に気付いた。
眼下のやり取りを朧気な意識で聞き取った金柑は目の奥がツンとし、込み上げるものを零さぬように押し込んだ。
気持ち悪い…
ねぇ、蓮華丸
私はどうすれば良いのかな
「金柑っ!」
フラリ、と足元が崩れた金柑に蓮は手を伸ばした。
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