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技局の緊急連絡が入ると、阿散井は隊首室に荒々しく駆け込んだ。

「朽木隊長」

静かに佇む朽木に阿散井は呼吸を整え、指示を仰ぐ。

「十一番隊と共に向かえ」
「はいっ」

阿散井は何人かの席官を捕まえ、十一番隊のいる場所へと駆けた。

既に戦闘は始まっており、あちらこちらで虚が昇華され、隊員の鉄臭い血の匂いが風に混じって漂っていた。

一角の掛け声に応じ、阿散井は刀を抜いた。

「咆えろ、蛇尾丸!十一番隊の邪魔はするなっ」

巻き込まれぬよう、席官に指示を出した阿散井は蛇尾丸を旋回させた。

ギャリン、と手元に落ち着かせると背後に弓親が回った。

「分かってるじゃないか」
「当然っスよ」

ニヤリ、と笑う元同僚を背に弓親は藤孔雀を構えた。

一方、朽木は吉良と檜佐木の隊を六番隊に集めた。

異様に静かな六番隊隊舎前、吉良は朽木の指示を待った。

「三番隊、九番隊は私の指揮下に入れ」

少しホッとした自分にイヤになりながらも、吉良は展開を始めた。

どんよりとくすんだ曇天を更に暗く覆う虚の大群の中、吉良は虚のいない一点が紅く光っていることに気付いた。

「あれは…朽木隊長っ!」
金柑くんか

吉良の表情に檜佐木も顔を上げれば、見慣れた少女がいた。

金柑じゃないか
「捕まっているのか、丹京は」

檜佐木は辺りに気配を集中し、柄に手を掛けた。

金柑の背後からスルリと現われた丹京は、朽木達の戦いぶりに眉をしかめた。

「ふむ、やはり少ないか。解地」

丹京がそう言うと、吸い寄せられるように虚が集まり始め、泥兵がズルズルと現われた。

「何だこれは」

吉良は始めてみるそれに吐き気を覚えた。

朽木の指揮下に入りながらも、自隊の隊員に指示を出す。

「弱い、弱すぎる」

檜佐木は刀にこびりついた泥を血振った。

檜佐木の表情に丹京は笑い、髪を揺らした。

「ふ、その程度で終わる訳がなかろうに」

呟いたそれは誰にも届かない。

「しゃらくせぇぇっ!!」

一方の十一番隊、阿散井達は時同じくして現われた泥兵をひたすら斬り続けた。

「うらぁっ」

阿散井が蛇尾丸を旋回させれば、一角は鬼灯丸を振り回す。

「ちょっと待って…おかしい」

ところが、ドロドロと現われていた筈の泥兵が姿を現さなくなった。

弓親は二人を止めて、辺りを探る。

金柑、金柑の霊圧だ

感じた瞬間駆け出した弓親に一角たちは驚いた。

「なんだ!?」

一角が阿散井に確かめれば、分からないと答え不安を見せた。

ちっ!
一角はすぐさま弓親を追った。

追い付いた弓親からはいつもの香りではなく、土と血の匂いがした。

「一角、金柑がおかしい」
金柑が…

金柑の名前を聞いた一角は、鬼灯丸を握り締めた。

足元はぬかるみが生じ、草鞋は滑る。

檜佐木は足元のぬかるみと金柑の表情に不安を煽られた。

「朽木隊長、不自然です」

檜佐木の気持ちを感じ取ったのか、吉良が朽木に言った。

あぁ、と頷くと丹京を見据えた。

「金柑」
張り上げた声は曇天に飲み込まれ、丹京は嘲笑った。

「檜佐木さん、金柑くんの死魄装…もしかして」

吉良は金柑の死魄装がやたらと垂れ下がっていることに気付き、目を凝らせば金柑の足袋は真っ赤で、はたりはたりと血が垂れているのが分かった。

「あぁ、血が染みてる」

檜佐木の言葉に朽木は眉間にしわを寄せ、斬魄刀に手を伸ばした。

その時、金柑の名を呼ぶ阿散井たちが一角を先頭に現われた。

泥や血に塗れた阿散井は金柑に向かって声を張り上げた。

「金柑っ、返事をしやがれ」
「阿散井っ!」

ビチャリと泥を蹴り、阿散井は走った。

檜佐木が止める間もなく金柑は手を翳した。

「来ないで。縛道の三十九、円閘扇」

阿散井は金柑に弾かれた。

「っく!金柑?」

撥ね除けられた右手を握り締めた阿散井に、金柑は冷めた目で答えた。

「近付かないで」

「どうしたんだ?」

檜佐木は上空での二人のやり取りに違和感を覚えた。
阿散井が拒絶された!

朽木は金柑を見上げた。

「ウミノ」

朽木の低音が金柑の耳に届き、金柑は息が苦しくなった。

隊長、すみません

分かってる
丹京は蓮華丸が私に力を溜めているのを

だったら、丹京が力を解放する時に私が力を解放すれば良い

私の方が蓮華丸を知ってる

逆恨みに利用されるなんてまっぴら…

それに蓮華丸は

私の斬魄刀だ
だから
だから
でも私が
丹京に刃を向ける理由はあるの?



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