05



「待たせたのう」

「遅いっスよ射場さん」

「阿散井くんだって今さっき来たばっかりじゃなかったかい?」

「吉良、そっちに詰めてくれないか?弓親さんどうぞ」

「悪いね」

「檜佐木てめっ!オレもいるんだぞっ」

「一角さん待って下さいって」

「あぁ!もぅ、あんたらうるさいわね。七緒あんたも早く来なさいよ」

「松本さん席を増やしますね」

なんだこれ…
飲んでいないのに地獄絵図なんだけど…
というか私は居て良いのかな?

各々が動き回り、居酒屋の喧騒が増す。結局のところ、伊勢と店主の計らいで一番奥の座敷を借りることが出来た。

「阿散井、さっさと行けよ」

理不尽っスよ、と阿散井はうなだれた。ペシペシとされた頭を撫で、斑目の前を歩く阿散井。

「射場副隊長、私なんかが居て良いんですか?」

「お、飲むのには関係ないけえのっ」

射場は既に戦闘体制だ。

「そうよ。ウミノさん、ただ松本さんには気をつけてね」

伊勢は、眼鏡を上げ至極真面目に金柑に忠告した。

「七緒早くいらっしゃい!金柑も来るのよ」

既にお品書きに頭を突っ込んでいる松本が呼んでいた。

頼むわよ、と意気込む松本に阿散井は便乗していた。

「ほれウミノ、さっさと座らんか」

失礼します、と金柑は座敷に上がった。

「ここは年長者に音頭をとってもらいましょ!ね?射場さんっ」

松本に促され、お猪口を片手に射場は立ち上がった。

「よっしゃ!!今日はわしの「奢りかい射場さんよぉ!」」

にやりと笑いながら合いの手を入れたのは、斑目。

そんな笑い方、格好良いなぁ

金柑は、関係ないことを考えていた。

少しは、副隊長の飲み会に免疫が出来たらしい。

「一角そげな口聞くようになったかぁ!」

「んとにもうっ、乾杯」


射場と斑目が取り残されて、乾杯の音頭は松本に取られた。

「さぁっ!飲むわよ」

腕を捲る松本を、伊勢が
限度を考えて下さいと既に説教をする。

そんな伊勢副隊長もしっかり飲んでるし、と金柑は、感心した。

運ばれてくる料理も美味しく、しっかり胃の中に入れている。

と、阿散井が肩を揺らして移動してきた。

「おぅ!ウミノっ!そんなに食べてないで飲めっ!!!飲まないと乱菊さんみたいにならねぇぞっ」

訳が分かんない
ていうか、松本副隊長はどんな造りになってるのよ

阿散井は完全に出来上がっていた。

原因は、松本だった。

ザルと思われる伊勢との飲み比べをけしかけたらしい。

既に吉良は、真っ赤で大の字になって寝転がって笑っていた。

恐らく、最初の被害者だ。

反対に、綾瀬川はのんびりと射場と日本酒を飲んでいた。

ちなみにその卓上だけ綺麗だ。

その後ろで、斑目は檜佐木を捕まえて飲んでいる。

真っ赤な檜佐木は、斑目にやり込められていた。

二人が話すところを初めてみる金柑にとっては、新鮮だった。

結局、阿散井は松本と伊勢に飲まされ、遊ばれて、潰れた。

限度がうんたらかんたら言っていたのは、と金柑は素面の伊勢に感心した。

いくらか経ち、ドンチャン騒ぎと地獄絵図に磨きがかかっていた。

それを横目に、手招きされた射場の近くに寄る。

射場さんと綾瀬川さんに挟まれてる…

金柑に緊張が一瞬にして走った。

「ウミノさん、飲む?」
「頂きます」

綾瀬川五席にお酌をさせちゃうなんて…!!

しっかり自分のお猪口を出す綾瀬川にホッとしながら金柑は、お酌をする。

「ウミノ、虚退治を優先的に回そうかのう」

射場が、ニヤリと笑いながら言う。

「えっと、嬉しい気もするんですけど、自信が無いです」

金柑は、突然過ぎて頭がついていかなかった。
隣の綾瀬川が、クスクス笑い出した。

まだまだですよね
金柑は、出来れば同意してくれないだろうかと尋ねた。

「実践あるのみじゃない」

綾瀬川五席、縋る視線を送るが撥ねられた。

「気にすることないんじゃない。今、自分がやりたいようにやりなよ。ねぇ、鉄さん」

射場に枝豆の入った器を回しながら、綾瀬川は続けた。

そうじゃ、と笑うと豪快にお酒を飲み干した。

はぁ
金柑はもやもやとしたが、口には出さなかった。

こんな話より世間話しようか、と綾瀬川が切り出した。

タイミングよく綾瀬川の背中をバシッと叩き、松本が酒瓶を持って入ってきた。

「そうよぉ!!金柑あんたっ付き合ってる人はいないのぉ?」

「へっ…?」

「ほらほらぁ!言いなさいよぉっ」

松本は、据わった目を更に釣り上げた。

いや、と口ごもった金柑。

「いるのかい?」

一応、と金柑は綾瀬川に答えた。そして何故か、目を見ることが出来なかった。

ふぅんと、お猪口をぷらぷらさせながら松本は続けた。

「アンタ付き合って三ヵ月くらいでしょ?」

「何で知ってるんですか!」

金柑は、驚いて身を乗り出した。

「私を甘く見るんじゃないの。七緒、お酒ェ」

だったら、聞かなくてもと金柑は思った。
そして、女特有のやり取りに気をつけようと決めた。

「本当に全く、いい加減にして下さい。すみません」

渋々と伊勢は、手を挙げた。

頼んじゃうんだ、と言いそうになるのを飲み込む。

「ほら飲みなさい」

金柑は、松本に勧められるがままに飲んだ。

「んで?」

「えっと、あんまりべたべたするのが好きじゃないみたいで」

質問に答えながら、そろりと辺りを見回した。

「向こうがかい?」

「いえ私です」

金柑は、綾瀬川に自分を指差した。

「ふぅん、淡白って訳でもなさそうなのにね」

綾瀬川は、片肘をつきながら言った。

「自分でもびっくりですよ」

金柑は、差し出されたつまみを取った。

「まぁ、男はこどもっぽいところがあるから、所構わず自慢したくなるんじゃないの」

「いや、自慢て」

金柑は、松本の発言に手を止めた。

「あら、あんた可愛い部類だと思うわよ」

何を…
金柑は有り得ません、と首を横に振った。

「松本さんは冗談では言いませんよ」

「いやいや!」

上手い具合に伊勢が続けたので、金柑は更に首を振るしかなかった。

「そうなのっ!」

松本は、指をビシッと金柑の額につけながら言った。

「今日は言うねぇ」

綾瀬川五席は笑い過ぎです
金柑は、項垂れた。
綾瀬川は、枝豆を摘まみながら笑っていた。

「私はウソを言わないわよ。ねぇ、七緒」

「吉良さんお水を」

伊勢は、松本の話を聞いていなかった。

俯せの吉良の首根っこを引っつかんでいる。

「うぅ…にゃはははっ」

吉良くん、まずいって
金柑は、あまり見たくなかったなと吉良から目を背けた。

「そういえば綾瀬川さん、書類が回ってきていないんですが」

キッと眼鏡をあげ、思い出したように伊勢は視線を向けた。

綾瀬川は、スルッと視線を外し、明日中に回しますよとだけ答えた。



射場が、引き揚げるかと言い出したことで死にかけていた何人かは蘇生した。

いや、蘇生させられた。

「ほらっボンクラ行くわよ」

引きずられた阿散井に金柑は、同情をした。

「弓親、檜佐木か阿散井んとこに泊めてもらうかぁ?」

死魄装のはだけを直しながら斑目は、立ち上がった。

「僕は結構だよ。きちんとお手入れをしなくちゃいけないからね」

「なんだよ。阿散井、はまずいな。檜佐木良いか」

斑目は次の標的を定めた。

「なんでっスか!?吉良を引き取らなきゃいけないのに」

定められた檜佐木は、急いで吉良の首根っこを掴んだ。

ぐぇ、と潰れた蛙のような声を吉良は出した。

「てめぇんところが恋次より綺麗なんだよっ!」

「阿散井と一緒にしないで下さいよっ!吉良はどうするんですか」

斑目は胸倉を掴んだ。
檜佐木もまた、斑目の気持ちは分かっている。

分かっているだけに、檜佐木は拒むのだ。

休み明けで掃除させた後じゃねぇとアノ部屋はキツイ
檜佐木も斑目も経験しているから。

「吉良はワシが引き取るで気にするな」

「すいません」

射場が、横から吉良を掴んだ。吉良はしな垂れかかる。檜佐木は、一礼するほかなかった。

結局、松本と伊勢と綾瀬川が帰路に。射場は吉良を連れてウミノと一緒の方面で帰路に着くことに。

檜佐木は斑目と一緒に阿散井を担いで檜佐木宅に。

冷静に考えりゃ、これで良かったじゃないか

檜佐木は、阿散井宅に向かう訳ではないからなと気付いた。

帰り際に金柑は松本に捕まり、気をつけるように言われた。射場さんが一緒だから大丈夫ですと答えた。

「わしらも行くか」

「はい」

途中で二人と別れて部屋に戻った金柑は何とか敷いた布団に糸が切れたマリオネットよろしく倒れ込んだ。



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