54



隊首室へと現われた見慣れぬ取り合わせに山本は片眉を上げた。

「珍しいの」

更木は顎で後ろの二人を指した。

「話があんのは一角だ」
「ほう」

カツン、と鳴った杖に金柑は顔を上げた。

「失礼します。十一番隊第三席、斑目一角です」
「六番隊第八席、ウミノ金柑です」

真っ白な顔、唇に滲む血が目立った。

お主が、ウミノか
元凶とも言えるのう

更木は一角を促した。

「実は」

一角が話し出したのは昨夜の邂逅であり、山本は耳を傾けた。

「そうか…ウミノお主に記憶は」

「ありません」

厄介じゃ
丹京となれば京家の者

そうであれば東家、渦土家が出てくるやもしれぬ…

山本が記憶を辿っていると大きな地響きと共に、死神らしからぬ霊圧が足元を捕らえた。

控えていた雀部がスルリと隊首室を出て、戻ってくると耳打ちをした。

「総隊長、鬼道衆が封じられたようです」
「して」

促す山本に雀部はチラリと金柑を見た。

「徒ならぬ霊圧が充満しております。意識を保てぬ者も」

山本は雀部の言葉に顎鬚を扱いた。

「そうか…恐らく何処も変わらぬだろう」

更木は床を見つめたままの金柑を見た。

「緊急召集せよ。お主は此処におれ」

そうだろうな…

一角は金柑の返事に、心の中で舌打ちをした。


すぐに各隊長は集められ、現状報告をした後に、一角の見たこと聞いたことを山本から告げられた。

山本の傍に金柑はいた。

「童京が丹京…」

浮竹は顎に手をやりながら呟いた。

「丹京で良いんじゃないの」

京楽は浮竹に言った。

「丹京の目的は分からぬが、六番隊ウミノ金柑を狙っておるであろう」

山本の言葉に、雛森は息を飲んだ。

吉良は顔に出さぬように、金柑の上司である朽木を窺った。

朽木は金柑を見ていた。

「どうするのですか」

卯ノ花の問いに答えるものは居なかった、隊長達の中には。

「どうする、議論は進まぬのだな」

答えた声の出所は山本の横、金柑だった。

「ウミノ」

朽木は虚ろな瞳の部下から目を逸らさなかった。

ぞわり、と金柑から漂う霊圧は金柑のものではなかった。

「私は丹京。何処ぞの小娘が私を追っていたようだが、無理なことよ」

砕蜂が苦々しく金柑を見た。

ふわり、と爪先が浮き、山本に向き直った。

「お主の目的はなんじゃ」
「死神を消すこと」

金柑は山本から目を離すことなく告げた。

吉良は金柑の表情が苦しげであることに気付いた。

意識はあるのか
吉良の疑問など知る由もない金柑は続けた。
「私とて力はあるのだよ。何故分け隔てられるのか…滅却師を見捨てた貴様らが」

全てを言い終えた頃には金柑の声ではなく、男の低い声へと変わっていた。

「何が言いたいんだ」
浮竹が尋ねた。

「私を侮るな」

その瞬間、金柑は床に倒れ込み、金柑の身体からは銀色の靄が立ち上ぼり、人型を取った。

「泥兵は眠る者たちと繋がっている。消せば消える、死だよ」

何を言っている
朽木はよろりと立ち上がった金柑を見た。

依り代、何の依り代なのか

治癒は蓮華丸であるならば、丹京の術に因るのは当然
ウミノに何かあるのか
眠っている人が傷付く…
蓮華丸の力はまだ私にある筈
それなら

金柑は白い靄を見つめ、心に決めた。

私がもっと自分にしっかりしていれば

「それは私に」

ほう、賢いのだな
それは最上の選択よ

丹京は金柑の言いたいことを汲み取り、笑った。

「賢い娘よな」

静まり返った隊長格の面々を前に、丹京は細々と赤い糸を指先から紡いだ。

「さて」

その糸でヒュンヒュンと幾重かの輪を描き、金柑を捕らえた。

「刀を向ければ分かっておろうな隊長殿」

静かに自分を睨み付ける朽木に言った。

「鬼道衆を封じたのも貴様か」

視線を外すことなく丹京に尋ねる朽木に、卯ノ花は捕らわれた金柑を見つめたが、金柑は俯いたままだった。

「先ずは此処を潰す。私とてな、人を憎みとうはないよ。仕方あるまい…」

ギチリと締め付けると金柑が呻いた。

私は私のけじめをつけなくちゃいけないんだ
蓮華丸は私が取り戻す

蓮華丸が元凶なら私が元凶だ

金柑は大きく深呼吸をし、白い靄の眼を見つめた。

「蓮華丸は」
「会わせてやろうな」

金柑の問いに答えた丹京の姿の靄は、金柑を自身の中に引き摺り込んだ。

赤い糸の名残が、じりじりと消えていった。

ウミノ、何を考えている

朽木隊長、と呼ぶ京楽にチラリと顔を上げた。

「仕掛けてきたようだね」

京楽が笠を目深に傾けると、感じたことの無い種の霊圧が感じられた。

驚いたことに、瀞霊廷内は静まり返っていた。

「一、二、五、七、十は内」

山本の言葉に該当する隊は頷く。

「四と十二は解析」

涅はニタリ、と笑みを浮かべた。

「三、六、九、十一は外じゃ」

ハッ、と笑った更木からは涼やかに鈴の音がし、緊張感を否応無しに感じさせた。

雀部に指示を出すと、京楽と浮竹をチラリと山本は見やった。

「八と十三は各隊隊長の判断に委ねる」

京楽は目深に傾けた笠を上げ、旧友に目尻を下げながら、大役だねと言った。

金柑の霊圧を辿れば、と考えていた吉良だったが、何処からも感じられないそれに唇を噛み締めた。


>>


//
熾きる目次
コンテンツトップ
サイトトップ
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -