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ちきしょうっ
寒いなぁっ

一番隊に出す報告書だからやらなきゃならねぇし
ツイてねぇ

既に濃紺から漆黒に変わった夜空に白い息を吐きながら、一角は足を早めた。

一角は隊舎に向かう途中小さな影を一つ見つけた。

暗がりの中一人佇み、動く気配を見せないその姿に一角は引っ掛かった。

気になった一角は、開けた場所にいるその人物を見ようと屋根に上り、見下ろした。

暗がりに、一つに結われた髪が夜風に揺れた。

その人影が手を翳すと、ぼうっと手に明かりが灯る。

明かりに照らされた人影に一角は目を見開いた。

「金柑、か…何してんだアイツ」

一角は霊圧を抑え、じっと見つめた。

暫くすると、金柑の高い声が響いた。

「解地、造(ゾウ)」

ゾゾリと金柑の周りに低い土塀が造られ、そこに小さな灯が幾つも入り込んだ。

なんだ、ありゃあ…
一角は金柑の表情に目を凝らした。

その土塀に手を触れ、金柑は唱えた。

「走れ、蓮の茎。包め、蓮の花弁。赤銀、京の元に」

そう言うと、土塀はべちゃりと潰れ、いくつもの線を走らせて地中へと消えた。

「金柑っ!」

気付けば一角は屋根から飛び降り、金柑の肩を掴んでいた。

ムッとした甘い香が泥の匂いと混じり、一角の鼻につく。

「邪魔をしてはならないよ」

ゾッとするような甘い声に一角は振り向いた。

「誰だ、テメェは」

漆黒に溶け込んだ髪色、浮かび上がるような白い肌の男が少し笑った。

「ふむ、私を知らぬと」

ぼんやりと目を漂わせている金柑の身体が少し傾いた。

「金柑っ!!」

一角が手を出すより早く、いつの間にか童京は金柑を支えていた。

「今は手を出すな。私の名は童京。いや、丹京か…」

一方的に名を告げると金柑に触れ、金柑の目を閉じる。

「何が目的だ」

一角はジャリ、と足を進める。

「力の掌握、とでも言おうかな」

くるくると回された指から流れ出る銀の筋が、丹京の身体を包む。

「金柑は関係があるのか」
それが一番重要じゃねぇか

「さあな」

童京はそんな一角を嘲笑うかのように時間だ、と笑った。

「さようなら」

銀の筋に絡めとられるように消えた童京を追う術などなく、目の前の金柑の手を一角は掴んだ。

「金柑」

夜風に冷えた指先は冷たく、一角は金柑の両手を掴み直した。

真っ暗
甘い香り

ぐちゃぐちゃしてる
一人だ

一人は嫌だ
誰か呼んだ


金柑が目を開ければ、目の前にいるのは一角で金柑は言葉が出なかった。

黙ったままの金柑に、一角は今の状況を尋ねた。

「最近、嫌な夢ばっかり見るんです」

乾ききった唇を開いた金柑は、一角から目を逸らした。

周りに誰もいない
蓮華丸もいない

ルキアもいない
阿散井くんも吉良くんも
皆いなくなる

蓮華丸がいないだけでこんなに辛いなんて
寂しいなんて

そんな金柑がフラリと夜風に当たろうと出たのは六番隊だった筈、と辺りを見渡す。

七番隊だ、と一角は答えた。

「今日はウチの隊舎に泊まれ。丁度、俺も泊まるからよ」
一人に出来ねぇ
恋次でもそうするだろ

一角は手招きをした。

「大丈夫です」

俯いた金柑はじりじりと後退りをする。

「気にするな、仮眠室に来い」
恋次だってそう言う筈じゃねぇか

まだ後退りをやめない金柑に、一角は溜め息を吐いて強引に手を掴んだ。

一角の手は温かった。

もしかしたら私のせいかもしれないのに
私なんて
私なんて

それでも金柑は、一角の傍で一角に手を握られていることが嬉しかった。

明かりを灯し、ストーブを焚いて薬缶をかけた一角は、奥の和室の障子を開け放った。

布団を一組引っ張り出し、金柑に促す。

「童京だ、何だかは金柑を狙ってるのか」

スン、と畳みの香が広がる。

「私の斬魄刀を」
私じゃない
私じゃないけど

原因は私なんだ
蓮華丸は私の斬魄刀なんだ

「丹京ってのは知ってるか」

童京なら知ってる…
「いえ」

シュンシュンと鳴る薬缶を外した一角は、俯いたまま立ち尽くす金柑を見た。

「そうか…悪かったな」

金柑は寝間着の羽織りを握り締めていた手を解いて、もう一度握り締めた。

「でも」

小さな声に一角は大丈夫だ、と言うしかなかった。

結局、寝付けない金柑を一角は隣りで書類を書き上げることで話し相手になった。

何度、湯を沸かしただろうか。

翌朝、一角は更木が顔を見せると呼び止めた。

更木は複雑な表情をする一角に嫌な予感を感じ、隊首室へと入った。

「ちっ…まだウミノはいんのか」

一角の説明に些か面倒だと呟いたが、この話を報告しなければ余計に問題かと舌打ちをした。

「はい」

一角は仮眠室にいる金柑が、まどろんでは起きるを繰り返していたことを思い出した。

「ウミノを連れて来い、ジイさんの所に行くぞ」

首を鳴らし、やちるの名を呼ぶ。

「分かりました」
悩むのは性に合わねぇ、ちっ

金柑、と声を掛けると返事をして外に出てきた。

「着いてこい」

朽木隊長の所…
どうしよう
六番隊、じゃない
一番隊、に行くのか…

遅れまいと続く金柑の足音が響いた。

重厚な扉をくぐり、三人は山本の前に立った。



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