52



52その頃、阿散井とルキアは朽木白哉の私室にいた。

「何もない、と」

ルキアは、童京から手に入れた石の話が割れて無くなったことを話していた。

ルキアの隣りで阿散井は話の行く末を見守りながらも、金柑の話ではないことから、何故自分が呼ばれたのか分からずにいた。

「はい」

ルキアは白哉の様子を窺うが、その表情からは何も読み取れない。

「そうか、十三番隊の休みはどれ程か」
「恐らく三分の一以上かと」

ルキアが答えると沈黙が三人を支配した。

その沈黙を破ったのは恋次だった。

「隊長、金柑は」

静けさ特有のキンとした耳鳴りが、ルキアを捕らえる。

「ウミノの斬魄刀の能力は知っている。最近おかしな様子はあったか」

恋次は金柑が柴岬を守った時のことを思い出す。

「一度金柑ではない奴が…あれが蓮華丸かもしれないっス」

【スルリと刀を平に横に構えると、阿散井の前に立った金柑は、下がれと言い放った。

振り向いた金柑の顔つきはまるで、男のようだった。

「下がれ、三、颪」

―ドンッ―

いつもより鈍い音を放ち、土煙を上げる金柑の腕を阿散井は掴んだ。

無理矢理振り向かせると、金柑は荒い息遣いのまま、いつもの丸い大きな目をパチリとさせた。

「何がですか」

怪訝な表情を浮かべながら、刀の力を押さえようとする金柑がいた。】

「それから」

ルキアは恋次を促す。

「四つ目の技を」
あの時アイツは…

「そうか、蓮華丸の意思であろう」

口を開いた上司に視線を合わせ、次の言葉を待つがルキアが尋ねた。

「兄様、金柑は」
どうして金柑なのだ
握り締められた拳のせいで、死魄装は深く皺が寄っている。

「まだ分からぬ。全ては童京がどのような背景を持つのか」

まだ何も分からぬ
情報が無さ過ぎるのだ

隊長…

沈黙を破る時は近付いていた。


ほんの少し移動させた足先に冷たい空気が触れ、金柑は目を覚ました。

見慣れぬ仮眠室の角に据え付けられた本棚には、瀞霊廷通信が納められていた。

そろりと戸を開けると、気付いた檜佐木が起きたか、と振り向いた。

「おはようさん」

「おはようございます、檜佐木さん申し訳ありませんっ」

ふあぁ、と欠伸をした檜佐木は、手を振りながら気にするなと言った。

「良いってことよ。金柑は妹みたいなもんだからな」

切れ長の目尻を下げ、身体を伸ばす。

「檜佐木さん…でも私なんか」

もしかしたら今の状態の原因だって、私かもしれない

俯く金柑の頭に手を乗せ、檜佐木は身体を屈めた。

「なんか、って言うな。分かったな」

有無を言わせないように圧する檜佐木の目は優しかった。

「はい」

金柑の返事に満足したのか、檜佐木は思い出し笑いをした。

怪訝な表情を浮かべる金柑に檜佐木は楽しそうに笑う。

「一角さんが運んだからなァ。ククッ」

ニヤニヤ笑う檜佐木に金柑は慌て、顔が熱くなるのが分かった。

「う、あー…どうしよう、まただ、どうしよう」

それが問題なのだ
仮にも女が酔い潰れて寝るなんて
有り得ない

頭を抱えた金柑を檜佐木は、くくっと笑いぽんぽんと肩を叩いた。

「気にすんな、伝えておいてやるよ」
「でも」

そういう訳にはいかない、と金柑は檜佐木に頭を下げたが、そんな元気ねえだろと優しく告げられた。

顔を上げれば、気にするなと微笑んでいた。

緩く陽射しが差し、床に薄暗くも柔らかな日溜が出来た。

ぽんぽんと頭を撫でると檜佐木は、給湯室に向かった。

一人取り残された金柑は、日溜に足を滑らした。

檜佐木さんは優し過ぎる
私なんか…

ぼんやりと足を見つめていると、檜佐木が小さな包みを手に戻ってきた。

「俺の作った貴重な握り飯だ。一つなら食えるだろ」

優しく微笑んだ檜佐木は、金柑の手にまだ温かい包みを乗せた。

一角の手とはまた異なる温もりに金柑は戸惑った。

そんな資格ないのに

「少しは食えよ」

そう言った檜佐木の目は柔らかくとも、心配をしているのが金柑でさえ見て取れた。

「ありがとうございます」

頭を下げたせいか、弛みかける涙腺を張り詰めさせる。

一人執務室に残った檜佐木は、金柑はあんな風に卑屈だったのかと思った。

手に残る温もりは握り飯のもので、金柑の手は冷たかった。



厳かな雰囲気は冷気も手伝い、隊長権限代行者である三人はより身を強張らせていた。

「それでは隊首会を執り行う」

カツンッと打たれた床の音にピクリと肩を震わせた目の前の吉良を見ることなく、砕蜂が口を開いた。

「昨日、童京を六番隊にて見つけました。しかし、確保出来ずに逃げられました」

砕蜂は、総隊長から目を逸らすことなく報告をした。

「逃げられたとな」

僅かに上がった眉毛に何故だか吉良が、心臓を鷲掴まれた気がした。

「はい、しかし幾つか情報を得ることが出来ました。その場に立ち会っていたのは六番隊の隊員です」

その発言に檜佐木は耳を疑った。

竹井の言っていたことはこういうことか

雛森の顔は青白かった。

朽木隊長、と総隊長は促す。

「ウミノ金柑、八席に身を置く者。ウミノの斬魄刀の力が奪われました。斬魄刀、蓮華丸は童京が探していた蓮だということ。ウミノの不可解な傷は何かの為の依り代であるということ」

淡々と目を閉じたまま、朽木は報告をした。

時折、風が鳴らす音以外には何も聞こえない。

黙り込む面々を見渡し総隊長が他には、と促せば卯ノ花が一歩前に出て、私からと顔を上げた。

「ウミノさんの傷は痛みを伴わず、四番隊の治療より早く傷が塞がり始めていました。ただ、この治癒力は彼女の斬魄刀、蓮華丸によるものです」

その言葉が意味するのは、斬魄刀の自我が何かを企てているのだろうかということであった。

「ふむ…涅」

唯一、特異な見立てを行う男に視線が集まった。

「ウミノ金柑には急に浮き出た痣があるのだヨ。重要なのは斬魄刀とその痣の霊圧が同じであるコト。童京とやらがウミノ金柑の斬魄刀である蓮を探す為に何らかの方法で蓮の霊圧を持っていた。童京がウミノ金柑に与えた石に込められていたようダネ。どっちにしろ、ウミノ金柑は利用されている」

ニイッと鮮やかな色の歯を見せて涅は言った。

「ただ、その痣は蓮華丸によるものだそうです」

卯ノ花の発言に、涅は少々不快だと言わんばかりに目をギョロリと動かす。

「そうか、して各隊の様子を十三番隊から報告せよ」

浮竹ははい、と応えると答えた。

「十三番隊は三分の一以上」

順繰りに報告を終えると、総隊長は情報は適宜報告することと締めた。

「此にて隊首会を終わる」



翌日、おはようございます、と声を掛けたのは同職の吉良だった。

「報告ですか」

華やかな髪色とは反対に青白い顔である。

「あぁ、これで三分の二だ」
隈が酷いな

目元の黒に苦笑いを浮かべ、報告書をヒラヒラさせる。

「こっちもそれくらい休みです。ただ、檜佐木さんが童京の関連が、と言ってましたよね。気になって聞いてみたら、全く関与していない人も目覚めないですね」

白い息を吐き、身体を寒さに震わせても声はしっかりとしていた。

「やっぱりか。俺も聞いてみたんだがな」

そうですか、と相槌を打ち吉良は寒いと呟いた。

「ただ、鬼道衆も目覚めないらしいです」

続けて吉良が言ったことは、昨日の隊首会の後から急に流れたものだった。

「噂だろ」
確信なんてねぇだろうになぁ

「まぁ、そうですけど。一番隊が出所らしいですから」

吉良は確かかもしれないですよ、とポツリと言った。

「そうか」

一番隊隊舎は普段と変わることなく、重厚な扉を構えている。



他の隊舎が人手が足らず騒がしいというものとは別に、十二番隊とりわけ技術開発局は慌ただしい。

技術開発局従事ではない十二番隊隊員までもが、借り出されていた。

「鵯州、追加だ」

阿近は卯ノ花のもとから来た地獄蝶を外に放し、紙挟みに数字を書き入れた。

「またかよ…後、幾つだ」
「百五十」

鵯州は間髪を入れず答えた阿近に、死ぬと言った。

手近にいた局員に指示を出しながら、阿近も作業を再開した。

「仕方ないだろうが。卯ノ花隊長直々の依頼だ」

今彼らが行っているのは、卯ノ花からの要請による監視用の小さな虫を作ること。

作られたそれは眠る隊員の元に放たれ、異常があれば技局に伝えられるようにされている。

個数を数え、ケースに納めながら鵯州は局長は、と尋ねた。

「斬魄刀に掛かりきりだ」

白煙を吐かない煙草を咥えたまま阿近は答えた。

「そっちが良いな」
「うるせーぞ」

うっかり虫を壊した局員を阿近は睨み付けた。



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