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ヒュルリと姿を消した童京を隠密機動が追う。

随時報告せよ、と砕蜂が指示を出すと金柑は二番隊隊長に振り向いた。

屋根の上で凛と立ち、遠くを見据えていた砕蜂は、金柑の視線に気付くと直ぐさま降り立つ。

「砕蜂隊長」

威圧的である霊圧に押されながらも、何とか踏みとどまる金柑の髪は乱れていた。

「所属と名は」
何故、アイツといたのだ

「六番隊八席、ウミノ金柑です」

不安を浮かべた表情に砕蜂は、場所を移そうと決めた。

「着いてこい」

厄介なことになったのか
どちらにせよ、尋ねなければならぬことばかりか

こくり、と頷いた金柑は砕蜂の後に着いてその場を離れた。

「隊長っ!何ですか」

大前田が何処からともなく現われると、金柑は思わずマジマジと見上げた。

「大前田、資料を持ってこい」

資料、今回の案件に関係あるってのかよ
こんな貧相な奴がねぇ

ジロリと金柑の頭の先から爪先まで値踏みするかのように大前田が見つめていると、砕蜂が拳を握った。

「分かりましたっ、朽木隊長に執務室にいるよう言っておきますよ」

肉付きのいい身体を軽々と運ぶ様に、凄いと金柑は呟いた。

隊首室に向かいながら砕蜂は、金柑に問い掛けた。

「関係は」

緊張のあまり、唇を噛み締め過ぎたせいか血が滲む金柑は口を開いた。

「あの人は童京さんです。占い師だと」

童京、占い師またこの名か…丹京ではないのか

「占い師、童京か。血の繋がりは無いのだな」

砕蜂は怯えている金柑は何も知らないのでは、と思い始めた。

あ奴、石を持っていたな

「あの石は」

矢継ぎ早に尋ねる砕蜂に、金柑は口の中が渇いた。

「あれは私が行った時に勧められたものです」

最初から私に渡すつもりだったのかな…まさか、でも私なんて…

考え込む金柑を余所に砕蜂は続けた。

「どういうものかは分かっているのか」

分かっていれば対処法を考えられるのだが

「すみません」

やはりな

金柑が真っ青な顔で頭を下げた。

「仕方あるまい」

朽木が隊首室で二人を待っていた為、一旦話を切り、朽木には砕蜂が簡潔に伝えた。

すると計ったかのように、ドタドタと騒がしい足音をさせた大前田が資料を届けにきた。

あの、と金柑が切り出したのは二人が資料に目を落としている時で、掠れた声に朽木は何故かと頭を悩ませる。

「でも、斬魄刀…私の斬魄刀の蓮華丸はあの人が探していた蓮だと」

握り締めていた手は解かれ、今は指が組まれ落ち着きなく動く。

「蓮、どういうことだ」

ここに来てやっと口を開いた朽木の問い掛けに答えられずに口ごもるも、金柑は何とか続けた。

「あと、私は依り代だからと」
何で私なの…

蓮華丸が蓮であるとするなら、まさかとは思うが

「斬魄刀の様子は」

朽木は金柑の斬魄刀の霊圧を探る。

様子ってどうと言われても…

柄に手を掛けたまま答えない金柑に、朽木は始解しろと言った。

「此処でですか」

自分を見る金柑に砕蜂は構わんと促す。

「はい、熾きろ蓮華丸」

やはりな
霊圧は感じられない
蓮華丸が童京の言う蓮であるということだな

朽木は砕蜂が金柑から斬魄刀を借り受ける様を横目に考える。

「ちっ、厄介だな」

恐らくウミノは何も知らないのであろう

「大前田、卯ノ花と涅に来るように伝えろ」

戸越に砕蜂が指示を出せば、ぶつくさ文句を言いながら足音が遠ざかる。

「ウミノは此処にいろ」

おどおどしながら頷く金柑を一瞥した砕蜂は朽木を見るが、考えが読めず苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

柔らかな霊圧を纏った卯ノ花と共に現われた涅に、金柑は何故だか無性に泣きたくなった。

涅隊長との約束を守れなかった…

身体中の筋が固まったような気がした金柑だったが、力の抜き方も分からなかった。

金柑の上司をギョロリと見やると涅は促した。

「やってみたまえヨ」

そろそろと立ち上がり刀を構える金柑を、卯ノ花は心配そうに見つめていた。

「熾きろ、蓮華丸…熾きろ、蓮華丸っ…」

「ウミノ金柑の痣と持ち去られた石の霊圧は、同じだったようダネ。ネム、阿近を呼べ」

ギュッと柄を握る金柑の様子に大したことではないとばかりに、戸の向こうで待機するネムに指示を出す。

阿近が来るまでの間、金柑は体の不調などを幾つか尋ねられた。

朽木は自分の机に着き、応接用の長椅子に砕蜂、卯ノ花と涅の順に座りった。

机を挟み砕蜂の向かいに金柑が座っていた。

白衣を身に着けた阿近が中に入ると金柑がうなだれ、涅が腕組みをしていた。

阿近が金柑の隣りに腰を下ろすと朽木が金柑に説明を促す。

金柑は話をする時、誰に言われた訳でもなく目を見る癖がついていた。

今まではこの癖を厭わしく思ったことはなかったが、目の前の砕蜂の目を見ることがこれ程苦痛だとは思わなかった。

緊張で手が冷たい…

金柑は指先を重ねて話し出した。

「童京さんが現われる前、蓮華丸が『時は来た』と」

蓮華丸の世界を思い出しながら金柑は続けた。

「童京さんは、『蓮』を探していました。蓮は蓮華丸で、私は依り代だから怪我をするのだと。だから…卯ノ花隊長、治癒力は蓮華丸の力です」

ウミノの斬魄刀が童京の探す『蓮』
童京の思惑が分からぬ

朽木がスッと視線を卯ノ花に向けると、それを受けた卯ノ花が頷いた。

「概ね、分かりました」

少しだけ身体から力を抜いた金柑に朽木は告げた。

「確実に前線から外す」

当たり前だ
始解が出来ない
蓮華丸がいない
どうして蓮華丸なの

「斬魄刀、預かるぞ」

「お願いします、阿近さん」

阿近は斬魄刀を握った。



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