49



―ドンッ

そろりと目を開けた金柑の足下が地鳴りと共に揺れ、白い靄が辺りを包む。

「っん、何、今のは」
地震…

嫌な胸騒ぎを感じた金柑の周りの靄が晴れ、人の影を見つける。

チリンと鳴る鈴に、土と甘い香が漂う。

「見つけたよ」

その声に金柑は聞き覚えがあった。

「童、京…童京さん」

目の前にいるのは世話になった男、童京。

「その名でも構わないよ。さぁ、蓮を渡してもらおうか」

金柑の様子に口角を上げ、指を振り、銀色の字を描く。

「れん…」

蓮と書かれた字は、ジワリと紅い滴を地面に滴らせる。

「そう、君が隠しているようだからねぇ」

字を弄ぶような仕草に異様な威圧感を感じながらも、金柑は尋ねた。

「隠す?童京さん何が…」
何なの?

「ウミノ金柑、少し待ちなさい」

童京はそう言いながらくるりと指を回し、小さな円を描く。同時に締め付けられるような感覚が金柑を捕らえた。

痛…い

「戻れ」

再度円を描いた指には、既に紐が千切れた蓮華石がふよりと漂っていた。

その石っ

もがく金柑を嘲笑い、倒れ込む姿を見下す。

「蓮を見つけるには、あ奴の霊圧を込めねばならなくてね。君に反応を示した時は嬉しかったものよ」

満足よ、と笑うと足下に風の渦を創り始めた童京。

砂の粒が金柑を襲い、身体を浮かび上がらせる。

「石が熱く感じたのは童京さんの」

問い質すも、足が宙に浮いているだけで声が震える。

「違うよ。恐らく蓮との霊圧に同調したのよ」

「同調?」

事も無げに言う童京の表情は薄ら笑いを浮かべ、今の状況を少なからず楽しんでいるように見える。

クルクル指を回して幾つもの風の渦を作る。

「まぁ良い。ウミノ金柑、君は蓮の器として利用させてもらうよ」

蓮の器…何それ

口に入り込んだ砂がジャリジャリと不快感を催す。

「賢くないものは嫌いなのだがね」

切れ長の目を更に細め、色の白い顔に映える赤い薄い唇の口角が下がる。

その間、作り上げた風の渦を金柑の周りに放ち、吹き上げられる様に笑む。

「蓮華丸?」

やたらと斬魄刀を引き離すように操作する童京に、金柑はまさかと尋ねる。

千切れた髪紐から解かれた髪はザワザワとざわつく風に揺られ、そのせいで童京の表情が見えなくなる。

「そう、依り代は大人しく依り代であれ」

足下から吹き上げられた風に中性的な顔立ちの童京が微笑み、弄んでいた指を止め、金柑の後方を見る。

「確保っ」

聞き慣れない凛とした声とともに現れたのは隠密機動だった。

金柑は何とか振り向いた。

砕蜂隊長…だ
良かった…

金柑のホッとした顔を見た童京は、ククッと笑い砕蜂に呼び掛ける。

「やはり、来たか」

まるで分かっていたのか、動じる様子を見せず左手の人差し指を差し出し銀色の字を二つ並べると続けた。

「次に会う時は力を手に入れる時よ。良い依り代となれよ、ウミノ金柑。此奴は貰い受ける。解(カイ)、寄(ヨセ)」

描いた字に息を吹き込むように深く唱える。

カチャカチャと鯉口の緩む音は、蓮華丸の世界から戻ると金柑の手に握られていたそれだった。

ボゥッと燃えるように光が灯ると、まるで引き抜かれるかのように光は童京の手に握られた。

―貴様、金柑済まない―

普段なら耳元で囁くその声は微かに聞こえるだけで、足を地に着けた金柑は茫然と立ち尽くす。



>>


//
熾きる目次
コンテンツトップ
サイトトップ
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -