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いつもと違う枕、御布団も違う匂いだ

私の部屋じゃない?

少し冷えた空気と品の良い香りに目を覚ますと、金柑は飛び起きた。

弓親に起こされたことを理解すると、金柑は隣りの布団で一角に潰されている阿散井に驚いた。

事情を聞いた金柑は弓親に謝るも、一角が良いって言ったんだから甘えなよと諭される。

んが、と一角の声に金柑の緊張はほぐれ、風呂を勧める弓親が金柑の為にと以前取り置きしていた死魄装に着替える。



「一度、十二番隊に向かえ。話は通してある」

朽木に呼ばれた金柑は検査ですか、と尋ねた。

椿の描かれた紙にウミノ金柑の検査依頼と書き、印を捺す。

この際だ
開き直った金柑は直ぐさま十二番隊へと向かった。

外とは裏腹に暗い廊下は金柑の動悸を早まらせ、聞こえる機械的な音は不安を煽る。

「六番隊八席、ウミノ金柑です」

隊員に教えてもらった扉の前で声を掛けると、ギィと鈍い音をさせ、角を持つ男が手招きをする。

「来たな。局長」

低い声だというのにやたらと響くそれに、身体がビクリと反応する。

「早く来たまえヨ」

阿近は金柑の鬱々とした表情が、此処に来たからではないことは分かっていた。

理由不明の痣なんてな…

卯ノ花から貰った資料に目を通し、上司の指示を仰ぐ。

「死魄装、どうしますか?」

今にも脱がんとする金柑を制し、答えを待つ阿近に涅は目を見開き、ニッと笑う。

「痣があると言ったネ」

陰りばかりじゃないカ
反応がそれでは面白くないのダヨ

涅の思いはいざ知らず、阿近は卯ノ花の痣の写しに呟く。

「ほう、華か」

資料を捲る阿近には目をくれず、金柑をジッと見ながら涅は指示を出す。

「透過機だヨ」

そう言った瞬間、ネムは既に準備をし始めた。

ガショガショという音を背景にしながら、涅は付け加えるように指を差し出した。

「斬魄刀もダヨ」

伸ばした指先に触れる柄は熱い。

「阿近から聞いているんだがネ」

話を進めたい涅は、長い爪を揺らしながら催促をする。

「はい」

阿近さん
いつの間に
そりゃ調べてもらうつもりだったけど…

「良い機会だろ」

火種を着けずに煙草を口に咥え、資料を閉じた阿近。

「ふむ…中々面白いじゃないカ」

画面に並ぶ数字の羅列を、勢いよく下へ下へと見ながら涅は笑う。

さっぱり分かんない…

阿近さんも説明してくれる訳じゃなさそうだし

聞こうかな…

金柑が阿近に声を掛けようとすると、涅が椅子ごと振り向く。

キィッと高い音に驚いた金柑に、涅は笑みを浮かべながら言った。

「ウミノ金柑、暫く任務はあるのかネ」

えっと…

金柑が答える前に、涅は透過機の電源を落としながら続ける。

「次に始解した時は、直ぐに此処に来たまえ。良いかネ」

目の前に迫る涅の個性的な異形に目を閉じることなく、金柑は頷いた。

「わ、分かりました…」

満足したらしい上司に背を向け、阿近は書き込んだ書類を紙挟みに挟み込みながら金柑を見る。

「結果報告は追ってする。四番隊にもだ。良いな」

ありがとうございました、と何度も頭を下げる金柑を見送った阿近は、珍しく遠目に金柑を見送る上司を見た。

「局長、どうですか?」

―ピッピッピッピッ…ピーッ―

規則的な信号音が途切れると、研究室を支配する音は記録用紙が吐き出されるギシギシという音に変わる。

阿近が鳴らすカタカタという操作音もまた、途切れていた。

「霊圧だヨ、ウミノ金柑の斬魄刀の霊圧が上がっているネ。異常値だヨ」

阿近とは異なる音を響かせる涅の指は、一つの画面を指差す。

「原因は」

阿近は画面と資料を見比べる。

「まだ、分からないヨ。しかし、石には霊圧が封じられているネ」

斬魄刀の近くに紅い点が、深緑の画面から浮き上がるように光る。

「ぶら下がっていた石だヨ。ただし、ウミノ金柑の霊圧ではないようだネ」

新たに小さな画面を引き出した涅は、数値を拡大表示させる。

「痣は」

金柑の身体に浮かぶ痣が新、たに引き出した画面にも紅い光が華を象る。

「痣と石の霊圧の色は同じだヨ」

涅がカツカツと画面に触れ、数値を拾いあげるのを阿近は資料に書き込む。

関係あるってか…

「関係はあるようだネ」

阿近の考えを見透かした涅は、楽しみは終わったとでも言うかのようにキイキイと鳴く椅子に腰を下ろす。

失礼します、と入ってきたネムは地獄蝶を連れていた。

「マユリ様明日の朝、隊首会だそうです」

地獄蝶は確認したとでも言うように、ヒラリと戸の隙間から出て行く。

「ふんっ、面倒なことだヨ」

ギョロリと目玉を動かすと、阿近に手を差し出し資料を受け取る。

「砕蜂隊長からの報告だそうです」

ネムの言葉に、先程まで玩具を既に楽しみきったとつまらなさそうにしていた涅は、クックックと笑い声をあげた。

「動いたようだネ」

阿近は全くと呆れながらも、俺もかと研究者としての笑みを浮かべた。


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