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最終日、退院手続きを終えた金柑を待っていたのは阿散井、吉良と乱菊だった。

後から来るから、といつもの面子を知らされた金柑は嬉しくなった。


「気にすんな、ほら飲めよ」

謝り倒す金柑に、一角は御猪口を手渡す。

乱菊の行きつけであるそこは、必然と射場や檜佐木も通う訳で、最後には京楽までも珍しく浮竹と共に顔を出した。

ただでさえ地獄絵図であるところに、新たな面子が加わり騒々しいことこの上なかった。

ただ、吉良だけは浮竹の元に隠れることが出来たらしく、満足そうであった。

日付も変わろうかという頃、落ち着きを見せた面々は意識のあるものは帰り、潰れたものは一角と弓親の元に置いていかれた。

言うなれば、乱菊や射場に阿散井と金柑。

隠れるように檜佐木が机の下から見つかった。

「明日は?」

ごろんと寝返りを打った阿散井は眠気に負けぬよう、弓親の言葉に頭を働かせる。

「金柑は午後からっス」

多分、金柑のことだよな
ぐっすりじゃねぇか

「そう」

弓親の柔らかな声に身体が沈み、阿散井は寝息を立てた。

店の主人がいつも通りだねと確認をし、一時間程したら起こすからと答える弓親。

淡い光に照らされた酒瓶や徳利が、明瞭な影を描く。

「ちっこい身体だな」

隣りに転がる阿散井や檜佐木と比べ、思わずそう言った。

「一角?」

物憂げに一角が金柑を見る様子に、弓親は金柑の口から聞いたのかと思う。

「訳の分かんねぇことになってよ」

金柑の痣の話を聞いたのは、金柑が泣き終えた時だった。

一角が弓親に思わず尋ねた時、弓親が時折見せた不安な表情に合点がいった。

「どうしたんだい」

他の座敷の喧騒が余計に静けさを際立たせ、寝息だけが聞こえる。

弓親は射場の死魄装を正し、移動をする。

「頼り方を知らないのか」

一角は金柑の小さな手に触れた、あの時より温かい。

「金柑は頼ってるよ。ただ、肝心な時に頼れないみたいだけどね」

金柑の隣りにいる阿散井を動かし、机の足に頭をぶつける檜佐木の頭を引き出す。

「あぁ…」

酒で掠れた一角の声が、やたらと弓親の耳に残る。

「金柑、少し痩せたよ」

以前はふっくらとしていた頬の肉が少し落ちていた。

「だな、ふっくらしてる方が似合ってら」

金柑の前に幾ら料理を差し出しても中々量が減らず、特に吉良が不安な表情をしていたのを一角は思い出す。

置き時計のコチコチと鳴る音に意識が向かう。

「本人に言いなよ」

「言えるかよ」

自分の言葉に即座に返す一角を、弓親は調子が戻ったかなとほっとする。

「目が離せないのかい」

痣の話をした時に聞いた金柑の様子…笑った顔を見たいんだけどな

心配になる弓親同様、最近の一角も心配しているのが目に見えて分かった。

「ここ最近はな」

やっぱりね…

―ガコッ―
鈍い音を立てたのは檜佐木であった。

折角、さっき移動させたのに

弓親は痛みから目を覚ました檜佐木に、クドクドと説教をした。

檜佐木は説教をされている理由が、さっぱりである。

最後に御冷やを渡され、覚醒したところで辺りを見回した檜佐木は、金柑の様子に小さく溜め息を吐いた。

いつもより笑わなかった
一角さんにもだ

むしろ謝り続けていた
それに最近、朽木隊長が卯ノ花隊長と話をしている

何か関係があるのか…

射場を起こす一角の声で意識を戻すと、阿散井の胸元から見えた勤務表につ、と手を伸ばす。

くしゃくしゃじゃねぇか、ったく…

広げるつもりは無かったのだが、やたらと引かれた朱に目を奪われる。

討伐任務のか…金柑の名が消されてる

失態か怪我
退院祝いなら怪我だが、人手が足りない状況で八席の力を削るのは…

何があったんだ…

憶測でものを言っても仕方ないよな

檜佐木は勤務表を綺麗に四ツ折にし、阿散井の懐に仕舞い込む。

「金柑と阿散井、起こします?」

珍しく目覚めの良い乱菊に、弓親が良かったと呟くのを聞いた檜佐木は、目を覚まさない二人をどうするかと思案する。

「仮眠室にでも、阿散井は?」

一角は寝入っている金柑を抱き起こすと、阿散井を足で突っ突く。

「十一で良いだろ」

え、と声を漏らすと弓親が笑った。

「大丈夫だよ、早めに起こすから。阿散井は長椅子にでも転がしておこうかな」

まぁ、良いか
弓親さんがいるなら大丈夫だろ

檜佐木が阿散井をどうにか立たせると、射場が貸しじゃ、と引き取る。

「行くか」

檜佐木は乱菊を送りながら、一角に背負われた以前より少し小さな金柑に祈った。

何でもねぇよな



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